「本塁打が出ない」と心配されていた佐藤輝明が2試合連続の3ラン。中堅方向にライナーでたたき込んだのはゾクッとするほどだ。よくぞ、こんな打者が阪神にいた。そう手放しで喜びたいところだが、そうはいかないのはいつものパターンである。

4番・佐藤輝の後、5番の大山悠輔は5度打席がまわって押し出し含む2つの四球と併殺打を含む3打数無安打。結局、福岡では無安打に終わった。これでオープン戦も42打数8安打4打点で打率は2割にも届かない。四球を選ぶのは貢献だが、この日など乱調の松本裕樹から佐藤輝に続いてガツンと打ってくれたりすれば、さらに盛り上がったところだ。

そもそも今年のオープン戦、福岡に来るまでクリーンアップを期待される打者に1発が出ていなかった。佐藤輝をはじめ、大山悠輔、マルテ、そしてロハスという面々だ。そこまで本塁打を記録していたのは糸井嘉男、小野寺暖、それに江越大賀の3人である。

糸井をどうとらえるかという問題はあるが、このままならベテランの「開幕クリーンアップ」という可能性も浮上する。それはいいが長いシーズンを考えればやはり厳しいだろう。助っ人もそうだが、ここはやはり、どう考えても大山の奮起が必要なのだ。

キャンプからの“競争”の結果、4番は佐藤輝に決まった。性格的にも打順どうこうなど気にしていない大山だと思うけれど、無意識のうちに4番を明け渡した影響があったりするのか。その辺り、本人でないと分からないが早く安打も1発も打って安心させてほしいのは事実だ。

佐藤輝が好調でも他の打者が打てなければ、次第に佐藤輝も打てなくなる。1人だけではダメ。だから「打線」という。この世界でよく言われることだ。それでなくても守護神スアレスが抜け、戦力ダウンを否定できない今季である。

「野手が1点取ることで、中継ぎ投手がひとり頑張ることで、スアレスの穴が埋まる可能性もある。いろいろな競争の中であれが埋まったよなっていうことをどれだけ作れるか」

これはキャンプ中に指揮官・矢野燿大が言っていたことだ。その通り、みんなで戦わなければ長いシーズンは勝ち切れない。それでなくともコロナ禍で不透明なシーズン。投手も野手も何が起こるか分からないのだから。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)