ほれ見てみい。ちょっとエエ投手、出てきたら全然打たれへん。相手がイヤがる策も何もせえへんし。ホンマ、どないなってんねん-。多くの虎党がそんなグチを言いながら苦い酒を飲んだ夜になったのではないかと想像する。

若い人の言葉で「フラグが立つ」というらしいが前日、不調の左腕・高橋奎二に襲いかかって本塁打攻勢で圧勝したときに、次はこんな試合展開になるのは妙に予想できた。相手先発は小川泰弘。よほど戦略を立てていかないと-と思っていたが案の定だ。

真面目な話、いわゆる一線級でない投手からはガンガン打つが主戦級を相手にすると沈黙してしまう…というのは長らく阪神打線を示す言い回しである。内部でもささやかれていたことだが堂々とそれを公言したのは前監督の金本知憲だ。

「格落ちの投手は打つだけどエース級は打てない。それではダメ」。ハッキリとそう話し、明確な方針を示した。広島でたたき上げた自身の経験から「まずは体つくり」とウエートトレーニングを全員に課したのは、つい数年前だ。

すぐに結果が出なかったが大山悠輔、糸原健斗らが次第に成長。そして監督が矢野燿大に代わり、毎年、Aクラスに入る戦いができるまでになってきたのだ。しかし矢野政権4年目の今季、かつて金本が嘆いたような状況に再び陥っていると言うしかない。

そして前日、ヤクルトにとってこの大敗はダメージの残るものではないだろうと想像したが、この試合でそれは確信に変わった。阪神1点ビハインドの7回、2死一塁から山崎晃大朗がセーフティーバントを三塁前に転がし、佐藤輝明が悪送球し、失点した場面だ。

あれを見て、残念だが、現在の阪神とヤクルトの差を感じてしまった。同じ思いの虎党、野球ファンは多いのではないか。1点を取るしつこさ、イヤらしさがまるで違う。だから首位と最下位なのだ。昨季は優勝を争った2球団なのに。

この試合、阪神ベンチに策はあっただろうか。選手も同様だ。小川をなんとか揺さぶって球数を投げさせて…という様子は申し訳ないけれど感じられなかった。チーム一丸となって、なんとか相手を倒そう、崩してやろうというムードが出てこないと、それは勝てない。何もあきらめてはいないけれど甲子園での巨人戦、そして交流戦を前に気持ちは晴れないのだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

ヤクルト対阪神 7回裏を終え、ぶぜんとする矢野監督(左)(撮影・狩俣裕三)
ヤクルト対阪神 7回裏を終え、ぶぜんとする矢野監督(左)(撮影・狩俣裕三)