「息ができません」。広島の会社で働いているのに大の虎党という若い知人からメッセージが来た。6点を勝ち越された延長11回。「落ち着いて」と返したがそんなものは過去に来たことがない。それほどショックだったということか。

糸井嘉男の引退試合は終盤まで接戦。しかし延長11回に一挙6点を勝ち越されてシラけてしまった。直接の理由はやはりミスだ。1死一塁からの犠打を処理できなかった7番手・岩貞祐太。そこで粘れず、この結果になった。

ふと思ったのは11回裏、指揮官・矢野燿大はこんなふうな話をしただろうか、ということだ。「6点取られたら7点取れ。投手は頑張ってきたやろ」。おそらく、していないだろう。いつも一生懸命で精神面をいう割には現実的な矢野。「押せ押せ」のときは元気がいいが劣勢になるとチーンとなってしまう。

昼間、ウエスタン・リーグの試合で2軍監督・平田勝男がこんなことを言っていたようだ。オリックス相手のこの試合は「13-15」の乱打戦で阪神が負けた。阪神打線は井上広大の2打席連発を含む7アーチを放ったが敗戦。それを受けて平田は言ったという。

「負けてるやん。7本打ったからって。どうってことない。15点取られたら15点取らなきゃ」。虎番記者の書く平田のコメントを、いかにも言うだろうなと思って読んでいた。

もちろん1軍と2軍は違う。矢野も18年に2軍監督として日本一になっている。そのときの「超積極的野球」を持ち込み、1軍の戦いに挑んだはずだ。しかしこの4年間、ほしかったと思うのは平田のような明るさと厳しさだったかもしれない。「予祝」という言葉で精神論を訴えた矢野だったが、それがどこまで浸透しただろうかとは思う。

矢野自身も1年目は「矢野ガッツ」で派手だった。だが年を追うことにそれは影を潜める。そして、この日。マスク越しにも顔色なく、うつろなまなざしに陥っているのが分かった。無理もないと思うが、それにしても元気がない。

采配もそうだ。同点の7回、代走に熊谷敬宥を出したのなら、なぜ動かないのか。ここは勝負。そう思っていたが何もなく近本光司、大山悠輔が連続三振。ここで「あかんか」と思った。いずれにせよ、あと4試合だ。初心に戻って最後まで敢然と攻めていってほしい。そうするべきだろう。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)