だから野球はおそろしい。
29日午後9時直前。阪神の優勝マジックは「19」に減ろうとしていた。DeNA相手に2点リードし、9回表のマウンドには抑えの岩崎優が上がる。その頃、甲子園から約16キロ南東へ離れた京セラドーム大阪では主催の巨人が広島を2点リードしていた。
阪神○広島●なら阪神は「M19」だ。今月16日にM29が点灯してから阪神が勝ってマジック対象の広島が負けたという日はない。それが長期ロードを終えて約1カ月ぶりに甲子園に戻った日に阪神が勝ち、広島が負けるパターンなら…。悲願の優勝へ向け、一気にムードは加速する。しかし同9時を回っての最終結果は「マジック消滅」だった。
この試合の阪神は明らかにアレ直前のムード。8回に2点を先制した場面。二塁打を放ち、代走を送られてベンチに下がっていた佐藤輝明らを始め、みんながベンチ前まで出て、大騒ぎだ。「優勝はこんな感じだったな」と過去のムードを思い出していた。
しかし2点を追う広島は8回、代打・末包昇大が逆転3ランを放つ。当然、この情報が阪神ベンチにも伝わったようだ。甲子園は9回表が始まったころか。「逆転3ランとか言うからあかんねん…」。試合後、指揮官・岡田彰布は虎番キャップたちの囲み取材を終え、階段を上ってバックヤードの消えようとした瞬間“謎のセリフ”を残した。
囲み取材では敗軍の将におもんぱかって出なかった「広島は勝ちましたが」という質問をここでしてみた。それに対して「おお。逆転3ランとか言うからあかんねん…」と言ったのだ。
これは想像だが広島の動向を気にしていた関係者が巨人-広島戦の状況を伝える、というよりは情報として上げたのだろう。それが岡田の耳に入った、ということだろうか。
もちろん、だから負けたわけではない。岡田にすれば阪神にすれば打つべき手を打った結果だ。「たいしたもんや」と褒めた今永昇太に好投されながら、代走、代打を駆使し、先制し、抑え投手を送った。
「そういうときもあるしのう。しゃあないわ」。岡田がそう言ったように岩崎優が不調だっただけで何か失敗をしたわけではない。ついたり消えたりするからマジックである。こたえる敗戦ではあるがそんな言い方を許してもらえるなら「アレへの難所。おもろなってきたやん」という感じだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)




