耳をつんざく大歓声が甲子園を包む。大山悠輔のサヨナラ安打が出た瞬間だ。日本シリーズ第4戦は死闘の末、阪神がサヨナラ勝ちを決めた。これで2勝2敗。虎党の歓喜は当然だが、その陰で寂しい光景が展開されていた。

オリックスが反撃していた7回表だ。同点にされ、なお1死一、二塁。阪神ベンチはここで2番手・桐敷拓馬を諦める。3番手・石井大智を投入する際にダブルスイッチで6番の打順に入れた。代わりにベンチに下がったのは佐藤輝明だ。

日本シリーズ4戦目にしてそれまでの5番から6番スタメンになった佐藤輝。だが左腕・山崎福也の前に2打席連続で空振り三振を喫する。さらに6回は3番手・阿部翔太の前に見逃し三振だ。同点にされた7回には最初の打者・広岡大志の三ゴロをグラブの土手に当てて失策。桐敷の足を引っ張った格好になった。

攻守に精彩を欠き、少しうなだれたような様子でベンチに戻る佐藤輝。シーズン中にも似た光景があった。7月12日のDeNA戦(甲子園)。2点ビハインドの7回表、2死走者なしでベンチは4番手・馬場皐輔をマウンドに送った。最初から「回またぎ」を想定。ダブルスイッチで「5番・佐藤輝」のところに馬場を入れ、佐藤輝はベンチに下がった。その日は失策はなかったがそこまで3打数無安打は同じだった。

佐藤輝にとれば、指揮官が岡田彰布に代わり、ときに叱責(しっせき)され、ときに励まされ浮き沈みを繰り返してきたシーズンである。今は不調時。CSファイナルでも打てなかった。だが、もう時間はない。シーズン優勝は誇れるものだが頂上決戦で結果を出せなければ悔しい気分で終わってしまう。

「奮起って。もうあんまり試合ないで。そんなん、もうあれへんやん。あと2つか3つしかないんやから。あっても3試合やで」。岡田は苦笑しながら、そう突き放した。交代自体は7月と同様に石井大に「回またぎ」をさせ、救援陣を残す目的。いわゆる“懲罰”ではなかったと説明したが、満足していないのは当然だ。だからこそ「もう試合ないで」という言葉につながったのである。

森友哉、頓宮裕真、さらに宗佑磨らが当たっているオリックスとは対照的にも見える阪神。大山はこの日、殊勲打を放った。次は佐藤輝だ。今こそ、奮起を期待する。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対オリックス 9回裏阪神1死満塁、サヨナラ打を放った阪神大山は途中交代となった阪神佐藤輝の肩に手をやる(撮影・和賀正仁)
阪神対オリックス 9回裏阪神1死満塁、サヨナラ打を放った阪神大山は途中交代となった阪神佐藤輝の肩に手をやる(撮影・和賀正仁)