「花城君の手術は成功しましたよ!」

5月16日、17時30分過ぎ。生田監督の下に届いたその電話は王子総合病院整形外科の鈴木克憲医師からでした。


 花城直君(亜大・投手・3年)が体の不調を感じたのは今年1月中旬ごろ。両大腿前面のしびれを感じ都内の病院で診察を受けたものの、当時は特に異常は見つけられず、様子を見て3月から練習を開始。4月からのリーグ戦では3試合を投げ、チーム6連覇に向け順調に勝利に貢献していました。しかし、4月下旬に入り両足に力が入らず、全力で走ることができなくなり、5月10日、鈴木医師が診察。


 「足のしびれだけなら、このまま様子をみることも可能でした。しかし、花城さんは、左足に力がはいらないこと、オシッコの出が悪いことがあることから、“黄色靭帯骨化症”と診断しました」

チームメートからの千羽鶴の前で色紙を持って笑顔を見せてくれた花城君
チームメートからの千羽鶴の前で色紙を持って笑顔を見せてくれた花城君

 国指定の難病、「黄色靭帯骨化症」とは、脊髄付近の靭帯が通常の何倍もの厚さになり、骨の様に固くなり(靭帯の骨化)、徐々に脊髄を圧迫してくる病気です。プロ野球では、巨人の越智大祐選手やソフトバンクの大隣憲司選手が患った病気でした。


 5月13日には王子総合病院にて精密検査を行い、手術が必要と診断されました。

 「このままでは、症状がさらに悪化して足がもつれたり、オシッコが完全に出なくなったりすることがあります。幸いこれらの症状が出たばかりなので、早めに黄色靱帯(じんたい)骨化切除の手術をすれば回復する可能性が非常に期待されるでしょう」(鈴木医師)

 手術は無事に成功。何より、この早期発見が功を奏したと鈴木医師は言います。


 花城君が手術を受けたこの日、チームは東都大学野球春季リーグ戦中、1勝1敗で12時から拓大との3戦目を戦い、1対3と敗戦し勝ち点を落としたばかりでした。


 「みんな、今日は俺が悪かった。ごめん!」

 この日の夜のミーティング。生田監督は第一声、選手たちに謝りました。

試合開始は12時。試合が終わってほどなくして15時から花城君の手術が始まっていました。

 生田監督の言葉は続きます。


 「今日は正直言って、試合どころじゃなかった。試合中も、直の手術のことばかりを考えていた。俺は強運を持っていると思っている。でもな、今日はそのすべてを直に使ったんだ。朝、いつも神棚に手を合わせる。いつもはみんなが元気に試合を戦えるように、と願っていた。でも、今日だけは違ったんだ。直を…どうか直を助けてください。それだけを願って手を合わせた。だから、今日の試合の負けは俺の責任だ。でも、おかげで直の手術は成功した。みんなありがとう、ありがとうな」

 

 生田監督は、選手たちに頭を下げました。

 

 翌日、朝一便の飛行機で花城君のお見舞いへ。

最短優勝がかかった拓大戦、13日の初戦が終わった夜から選手たちが折った千羽鶴と、学年ごとに思いを綴った色紙。そして、グラウンドで全員で声を合わせ「フレーフレー、花城~」とエールを送ったビデオレターを届けました。


 監督、コーチ、そして選手。チーム全員に支えられ、難病と闘った花城選手。

同病院には、1年生の高橋遥人選手も肘の手術で入院中でした。花城君の手術の夜は、病室に自ら布団を運び込み、朝方まで看病。夜8時ころには、麻酔が切れて苦しむ花城君を見るに見かね、監督に電話もしたといいます。

 「監督さん! 直さんが麻酔が切れて痛くてのたうちまわっています! どうしたらいいでしょうか!」

 看護婦さんを呼ぶよりも、先に監督に電話をするなんて…。苦しむ先輩を目の前に、どんなにか心細かったことでしょう。


 花城君は手術の2日後の19日には入院中の王子総合病院整形外科でリハビリを開始。順調な回復に、本人はもちろん、周囲を安心させているそうです。

 「手術は成功。順調にリハビリができれば、ピッチングは3カ月くらいで始められるようにしたいですね!」(鈴木医師)


19日にはリハビリをスタート。順調に回復しています!
19日にはリハビリをスタート。順調に回復しています!


 花城君の病室には、今もチームメートからの思いがつづられた4枚の色紙。そして後ろには千羽鶴が飾られています。

 先輩の東浜巨選手(現ソフトバンク)からは、同じ沖縄出身ということで東浜君のお母さんが作った沖縄のお菓子“サーターアンダギー”と、同じ病気を患った大隣選手のサインが届けられました。

 「直、早くよくなって帰って来い!」

 みんなの思いは、しっかりと花城君の心に届いています。


 花城君、よく頑張ったね! 難病に手術に。とっても大変なこの数日間。でも、こんなにステキな仲間たちに囲まれていることを病気が気づかせてくれた。今度は、みんなの願いにこたえて復活しなくちゃ。リハビリを頑張ってね!


 「さぁ、これで心配ごとはなくなった。みんなで戦うぞ!」

 「おー!」

 5月17日、選手たちの声が、グラウンドに響きました。


 亜細亜大は27日から、国学院大学との優勝決定戦へ向かいます。


 選手たちは戦います。まだ、病院でリハビリと戦う花城君へ、「優勝」という最高のプレゼントを届けるために-。


手術前の花城君(右)同病院で肘の手術で入院していた1年生の高橋遥人君(左)
も付き切りで看病してくれたそう
手術前の花城君(右)同病院で肘の手術で入院していた1年生の高橋遥人君(左) も付き切りで看病してくれたそう