先日、1本の電話があった。

 「お店を閉めることにしたのよ。30年頑張ったんだけどねぇ。今まで応援してくれてありがとうね」


 声の主は、京急能見台(のうけんだい)駅に隣接するハンバーガーチェーン店「サンテオレ能見台店」(横浜市金沢区)の大塚幸子さん(64)。30年間の営業にピリオドを打ち、3月18日をもって閉店すると言う。


「いつも明るくて、何でも話を聞いてくれる」。選手に大人気だった大塚さん。プロ入りした松坂がひょっこり姿を見せに来ることもあった。(98年夏撮影)
「いつも明るくて、何でも話を聞いてくれる」。選手に大人気だった大塚さん。プロ入りした松坂がひょっこり姿を見せに来ることもあった。(98年夏撮影)

 この店はソフトバンク・松坂大輔投手を筆頭に、横浜高校野球部のお腹と心を満たしてきた選手ご用達の店。テレビや雑誌でも多く取り上げられてきた。


 大塚さんは、夫で店長の義雄さんと笑顔で球児を迎え続け、「コーチには内緒よ」と、現役選手たちにハンバーガーを差し入れしてきた。


 その“サンテ”がなくなる。


 「うそだ。最悪でしょ(泣)」

 「能見台のシンボル。悲しい」

 「店長さんばりいい人やしクレープばりおいしかったんに〜」

 「俺たちの青春が…」


 ツイッターにも閉店を惜しむ声が並んでいる。

 横高野球部は寮生活の選手も多く抱える名門。お母さんのような大塚さんと何気ない会話をすることで、心救われた選手も多かった。高校球児にこんなに愛されたハンバーガー店が他にあっただろうか。


 「時代なのね。しょうがないのよ。下に有名コンビニエンスストアができたでしょう。ハンバーガーは高いんだって。家賃、人件費、材料費。ギリギリでやってきたけどもう限界で…ごめんね…」

 消費税が8%に上がったことも、大きな痛手だった。


 筆者も取材の帰りに必ず立ち寄ったものだ。18年前、松坂が高校生の時「やわらかイカバーガー」をよく食べに来ていたのがなつかしい。松坂はプロに入ってもここによく帰ってきていた。

 「マツ(松坂)は必ず親友を一人連れて来てたの。先にその子に店に行かせて、私がいるのを確認してからソッと中に入ってきた。プロ野球選手になって、騒がれて疲れてたんだろうね。ニコッって笑ってね、黙ってた。私は奥の席にマツを座らせて『食べな』ってバーガーとコーラを出したっけ」

 お店には、そんな「お忍び」で来た松坂の写真をはじめ、何十枚もの写真やサインが壁を埋め尽くしている。


 最近、大塚さんが驚いているのがインターネットで閉店の噂を聞いたOBが、続々と店に会いに来てくれることだった。ベイスターズの後藤武敏選手、荒波翔選手はサイン入りユニホームを持ってかけつけた。タレントの上地雄輔さんが来た時は「寂しい」と抱き合って泣き合ったという。


「毎日泣きっぱなしです。これからは横高の試合を見に行きたいな」


 再会に感謝し、今までできなかった横高の応援を楽しむ予定だとか。今日(18日)23時にシャッターを閉める大塚さん。

心から「お疲れ様でした」と言わせてもらった。


店内の壁は歴代のメンバーの色紙や写真でびっしり。全国から見に来るファンもいたほど。(98年甲子園春夏連覇メンバーの色紙)
店内の壁は歴代のメンバーの色紙や写真でびっしり。全国から見に来るファンもいたほど。(98年甲子園春夏連覇メンバーの色紙)

 名物コーチだった横高・小倉清一郎氏が23年間の指導を終えて、昨夏に退任した。2月に創部70周年を終えた横高。全国制覇5度の名門を脇から支えた功労者がまた一人“ユニホーム”を脱ぐ。