龍谷大平安(京都)・原田英彦監督を泣かせた小川が、自分も安堵(あんど)の男泣きだ。芝生に弾むサヨナラの打球に、涙がこみあげた。「前の打席もその前もチャンスで凡退して。絶対に終わらせてやろうと思って」。高ぶる思いが胸にあふれた。

 延長12回2死満塁。打席の小川は初球から2球連続でセーフティーバントに失敗した。10回2死満塁の前打席は三塁ゴロ。また巡ってきた名誉挽回の場面でまた追い込まれた。「強い気持ち!」。原田監督の絶叫が聞こえた。打てなくても、まだ信じてくれていた。4球目を左中間に運んだ。

 高い運動能力を持ちながら不器用で、打撃もトレーニングも自分のものにするのに時間がかかる。泣きながら完全取得に取り組んだ。チームを思う余裕がなかった。その小川が2回戦で犠打を決めた直後、続く久保田に「続いてくれ!」と叫んだ。「小川のあんな声を聞いたのは初めて。チームが変わってきた」。2回戦のあと、原田監督は小川の熱さを思い出し、通路で泣いていた。この日は2人そろってうれし涙にくれた。

 175球完投のエース市岡は12回、先頭で右翼線二塁打を放ち、塁上の投手に許されるグラウンドコートも「走りにくいから」と拒否。小川の安打で「打ってくれると信じていました」とホームに駆け込んだ。

 1927年夏から歴史を積み上げて99勝。「このユニホームを着て甲子園にいられることを誇りに思います」とエースは胸を張った。100勝を通過点に、頂点に駆け上がる。【堀まどか】

 ◆龍谷大平安8度目のサヨナラ勝ち 龍谷大平安のサヨナラ勝ちは14年センバツ準々決勝の桐生第一戦以来で、春夏通算8度目。サヨナラ勝ちの多い学校では(1)中京大中京13(2)PL学園10(3)報徳学園、高松商=各9に次ぎ、県岐阜商、広陵=各8に並ぶ5位。

 ◆延長12回交代なし 龍谷大平安、明石商は双方9人でプレー。延長12回以上の両軍交代なしは99年日南学園3-1峰山(12回)以来17年ぶり。センバツでベンチ入り枠が18人に増えた04年以降は初めて。