第89回選抜高校野球大会(3月19日開幕、甲子園)に出場する仙台育英(宮城)が正捕手不在の危機を迎えている。4番尾崎拓海捕手(2年)が1月21日の練習中に左眼窩(がんか)底を骨折し、本番まで間に合うか微妙となった。昨秋は背番号12の渡部夏史捕手(2年)と、同20の阿部大夢捕手(1年)が代役に名乗りを上げた。守備型の渡部と、攻撃型の阿部が競い合って底上げし、ピンチを乗り切る。

 4番兼正捕手として絶対的な存在だった尾崎の離脱は、チームに違った副作用をもたらしていた。

 昨秋の公式戦13試合中、9試合に途中出場した渡部は燃えていた。「尾崎が本番に間に合うか分からないけど、出たら、自分のスタイルを貫く」。7試合に途中出場した阿部も「尾崎さんの故障はつらいけど、試合に出るつもりで準備する。そういう意味ではモチベーションが上がる」。

 センバツでの試合出場が現実味を帯びたことで、2人とも目つきが変わっていた。尾崎が間に合わない場合、代役の力が勝敗に直結してくる。渡部は「自分にはすべてのボールを止める使命がある」とキャッチングに絶対的な自信を持っており、公式戦でいまだ捕逸を記録したことがない。沈むスプリットを決め球にするエース長谷川拓帆投手(2年)は「後ろにそらさないので投げやすい。違和感はない」と話した。

 一方の阿部はシュアな打撃が持ち味だ。「尾崎さんみたいに長打は打てないけど、野手の間を抜いて広角に打ち分けます」。秀光中2年時には先輩の渡部を差し置いて正捕手となり、全国中学軟式野球大会で優勝。中3ではU-15(15歳以下)侍ジャパンに選出され、アジア大会準優勝に導いている。

 2月中は学校で練習し、3月3日からは沖縄合宿で仕上げる。渡部は悲壮な決意を口にした。「尾崎からはセンバツ頑張れって言われている。出る以上は尾崎の分まで」。戦友のためにも体を張る。【高橋洋平】

 ◆渡部夏史(わたべ・なつひと)1999年(平11)7月28日、仙台市生まれ。新田小3年で野球を始め、秀光中3年で全中優勝。仙台育英入学後は2年秋からベンチ入り。163センチ、60キロ。右投げ両打ち。

 ◆阿部大夢(あべ・ひろむ)2000年(平12)5月23日、宮城・登米市生まれ。加賀野小1から野球を始め、小6で楽天ジュニアに選出。秀光中2年で全中優勝。3年時に準優勝し、U-15日本代表に選ばれた。仙台育英入学後は1年秋からベンチ入り。164センチ、66キロ。右投げ左打ち。