<君の夏は。>

 笑みがはじける前橋(群馬)ナインの中心に、八幡拓洋(ひろみ)外野手(3年)がいた。「試合前は少し緊張していましたが、リベンジできて良かったです」。昨夏3回戦で完封負けを喫した館林に快勝した。5番左翼で先発し、4回の第2打席では左前適時打。安田智則監督(42)も「チームのムードメーカー」と認める八幡だが、11カ月前には肝臓破裂の大けがを負った。家族全員が死の恐怖を抱くほどの重傷だった。

 新チームで初めての公式戦。中毛リーグの初戦だった。右翼を守っていた八幡は、右中間の打球を追いかけて、中堅の選手と衝突した。「膝がおなかに入って、感じたことのない痛みでした」。スタンドから両親が観戦している前で、グラウンドをのたうち回った。

 救急車で病院に運ばれると、医師から母奈美枝さん(48)に「今すぐ家族全員を集めて下さい」と告げられた。血の気が引いた。その言葉は、意識のあった八幡にも聞こえていた。「ここで死ぬのかと思いました」。肝臓からの出血がひどく、腹の中が血だらけ。今夜がヤマだと伝えられた。父孝行さん(53)は「どうなってしまうのかと…。不安でした」と語る。