平成最初の優勝投手から平成最後の甲子園球児へ-。平成元年の89年、第61回選抜高校野球大会で優勝した東邦(愛知)のエースだった山田喜久夫さん(47)が15日、メッセージを送った。劇的優勝を含む甲子園での経験が、人として成長させてくれたという。東邦の後輩たちには、平成ラストイヤーの大舞台を優勝で締めくくるよう願っている。【取材=古川真弥】

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高校生の僕には、ちょっときつい言葉でした。「てんぐになってるんじゃないの」。平成元年のセンバツで優勝したけど、そんなことを言う人もいました。

負けた時は叱咤(しった)されたのに、優勝したらしたで言われる。グッと我慢です。甲子園は人間的に成長させてくれる場所。今はわらび餅店を営んでいますが、お客様が来ない時があっても「チャンスは巡る」と思える。経験は必ず、後になって生きてきます。

実は、あの優勝を「素直に喜んでいいのか?」という思いがあるんです。誰も予想しなかった展開。ドラマチックですよ。前年のセンバツは宇和島東(愛媛)に決勝で敗れました。忘れ物を取りに行く気持ちがあったから厳しい練習に耐えてきた。メダルの色が変わり、ホッとしました。

ハッとさせられたのは、数日してからです。先生(阪口監督)から「暴投した子の気持ちを考えろ。人の痛みを感じろ」と言われました。勝負事は勝たなきゃいけない。でも、思いやりの心も同じくらい、大事なんです。そういうことも甲子園から教わりました。子どもたちに野球を教えるときは「正々堂々やろう」と言っています。

平成最初の意識は、あまりありませんでした。時がたってから「平成最初の優勝は東邦で、喜久ちゃんだね」と言われるようになった。恵まれていますね。東邦の後輩たちには頂点を目指し、ぜひ優勝で平成の最後を締めくくって欲しい。東邦に限らず、全ての選手には…一投一打を大事に、ゲームセットまで諦めずにやって欲しい。

よく「楽しめ」と言われますが、楽しんでる場合じゃありませんから。ただ一心に諦めず、思い切ったプレーを貫けば、おのずと感動するプレーが生まれる。夏も、その先にある人生にも、甲子園が大きな力を授けてくれるはずです。(平成元年センバツ優勝投手)

◆平成元年センバツVTR

前年大会の準優勝の東邦はエース左腕山田を擁し順調に勝ち進み、準々決勝で近大付にサヨナラ勝ち。勢いに乗って決勝に駒を進めた。後にプロ入りする元木、種田らを擁する強打の上宮は準決勝で横浜商に9-0で快勝。決勝は大会前から優勝候補に挙げられていたチーム同士の顔合わせとなった。試合は上宮宮田と東邦山田の投手戦で進み、1-1で延長戦に突入。10回表、上宮は元木の安打などから1点を勝ち越した。その裏、東邦は2死走者なしまで追い込まれたが、四球などで得点圏まで走者を進め、中前打で同点。さらに上宮が挟殺を狙った送球が乱れる間にホームを奪い、劇的な逆転サヨナラ勝ちで48年ぶりの優勝を決めた。