第92回選抜高校野球大会(3月19日開幕、甲子園)の選考会が24日、大阪市内で開かれ、出場32校が決定。大分商が23年ぶり6度目のセンバツ出場を決めた。

チームをけん引したのがエースで主将の川瀬堅斗投手(2年)だ。ソフトバンク所属の川瀬晃内野手(22)を兄に持つ右腕は、中3秋に交通事故で頭蓋骨骨折などの大けがを負い生死の淵をさまよった。普通の生活も危ぶまれた状態から復帰を遂げ最速147キロのプロ注目投手に成長した。奇跡のエースが甲子園で大分商旋風を巻き起こす。

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グラウンドで吉報を受け取ると、安堵(あんど)の表情が広がった。大分商・川瀬は「やっと、という気持ちです。1週間を切った頃からソワソワというか、緊張感がありました。うれしいのひと言しかありません。飛び跳ねて喜びたい気分」と、胸をなで下ろした。

「本当に奇跡だと思います」。2年前のことを考えれば、甲子園までたどり着いたことを自分でも信じられない思いだ。中3の10月。後輩たちの野球を応援するため、自転車に乗っていた川瀬は自動車との事故で大けがを負った。「全く記憶がないんです。目が覚めたら病院にいた。なんでここにいるんだろう、という感じでした。生死をさまよっていた」。頭蓋骨骨折や頭部の内出血などで緊急手術。それから約1週間は集中治療室(ICU)に入れられた。

父の保男さん(63)は医師からショッキングな知らせを受けた。「野球やスポーツはできないかもしれない。それどころか、普通の生活もできるかわからない」。中学時代から有望投手だった息子の夢が、ここで終わるかもしれない。胸が締め付けられた。事故から45日間の入院生活。両親が交代で必ず毎日付き添った。川瀬は奇跡的な復活を遂げ、ついにこの日、甲子園切符をつかんだ。

「奇跡のエース」川瀬が象徴のチームはミラクルで勝ち上がった。九州大会1回戦の大崎(長崎)戦では8回に3点リードを追いつかれながら、延長10回に勝ち越して勝利した。川瀬とバッテリーを組む末田龍祐捕手(2年)は「川瀬ならピンチになっても逆転は許さない。抑えてくれるという信頼がある。みんなも『川瀬のために点を取ろう』となるんです。チームの良さを引き出してくれる存在」と、ミラクルを呼ぶ川瀬の力を力説した。

甲子園での目標は「先輩方のベスト8を超えたい」と春夏合わせて過去5度の8強を上回る意気込み。そして「150キロの大台を出したい」と最速147キロからの更新を狙っている。死地からよみがえったミラクルエースが甲子園でも奇跡を起こす。【山本大地】

◆川瀬堅斗(かわせ・けんと)2002年(平14)6月18日生まれ。大分市出身。賀来ヤンキースで野球を始める。湯布院ボーイズから大分商に進み、1年夏からベンチ入り。同秋からエース。最速147キロ。兄はソフトバンクの川瀬晃。183センチ、82キロ。右投げ右打ち。

▽ソフトバンク川瀬(大分商OBで堅斗投手の兄)「弟が母校の主将・エースとして甲子園の舞台に立つことは、夢を見ているようで実感が湧かないですが、本当にうれしいです。甲子園には行きながら試合に出なかった僕よりもずっといい選手ですし、どんな活躍をしてくれるか楽しみで仕方ないです。まずは初球、思いのこもったボールを投げて、大舞台の試合を思う存分楽しんでもらいたいと思います」

▽ソフトバンク笠谷(大分商OB) 「僕らの時(2年時の夏)は初戦で負けてしまったので、とにかく1つ勝ってほしい。センバツ大会はまだ寒いけど、頑張ってほしいですね」