奥会津にある山あいの町に、甲子園へと続く光が差した。日本高野連は10日、来春の第94回選抜高校野球大会(22年3月18日開幕、甲子園)の21世紀枠の地区候補9校を発表した。東北からは只見(福島)が選ばれた。日本有数の豪雪地帯で、冬場の練習が著しく制限される。過疎が進む町の支援も受け、工夫をこらした練習で今秋の福島県大会8強に進んだ。来年1月28日の選考委員会で、9校のうち3校(東日本と西日本から各1校、地域限定なし1校)が出場権を得る。

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全校生徒87人の学校が歓声に包まれた。午後3時5分の授業終了と同時に、伊藤勝宏校長(56)が地区候補入りの校内放送を流した。「小さな可能性が実を結んだ成果です」。部員16人(うちマネジャー2人)のチームが初の甲子園へ、さらに1歩近づいた。

来年で就任20年の長谷川清之監督(54)は「過疎地の学校の励みになりますね」と目元をうるませた。新潟との県境が近い只見町は、日本有数の豪雪地帯。真冬の積雪は3メートルにも及ぶ。野球部は自転車で10分足らずの町営グラウンドを無料で利用できるが、例年11月後半から4月上旬まで使えない。その間は校舎内の駐輪場でティー打撃やバドミントンのハネ打ち、ウエートやバイクこぎ、体育館で軟らかいボールを使ったノックなどに限られる。それでも、吉津塁主将(2年)は「ここで生まれ育ったので、当たり前のこと。他の学校より実戦は少ないですが、このチームの良さがある。ハンディとは思いません」と元気よく話した。

只見の良さとは-。大半が小学校からのチームメートで気心が知れる。そこに、町と連携した「山村教育留学制度」でやってくる町外の部員が融合。吉津は「技術や考え方が只見の子とは違う。レベルアップできます」。真冬、真っ白な雪の上を、みんなで手をつないで歩くトレーニングがある。雪かきも野球部が率先。かきわけて道を作り、雪の壁の間でキャッチボール。「足腰が強くなります」。ハンディと思われる雪を大自然の恵みに替える。

秋は終盤の同点、逆転が多かった。長谷川監督は「当たり前のことを当たり前にやる意識が高い子たちです」と目を細めた。同校初の県8強から、初の甲子園へ。1月の吉報を信じ、さらに鍛える。【古川真弥】

◆只見高校 48年、県立南会西部高校伊北分校として開校。幾度かの学科再編を経て、54年に現在地に校舎が建設された。64年に只見高校として独立昇格。全校生徒87人のうち、約30人が町外から「山村教育留学制度」で入学。卒業後、そのまま只見で就職する人もいる。野球部は76年創部。これまでは、08年夏の県16強が最高成績だった。

◆只見町(ただみまち) 福島県南会津郡に属し、日本有数の豪雪地帯。豊かな自然が残されており、東北で唯一のユネスコパークに認定されている。「自然首都」を掲げ、自然体験などの観光に力を入れる。かつては養蚕や塩の生産で栄え、戦後はダム建設でにぎわった。55年をピークに人口が減少。町はUターンや移住を呼び掛けている。