第94回選抜高校野球大会(3月18日開幕、甲子園)の出場が決まった花巻東の主将・田代旭捕手(2年)と、高校通算50本塁打(公式戦12本、練習試合38本)の佐々木麟太郎内野手(1年)が対談を行った。学年は一つ違うが、中学から一緒にプレー。2人だからこそ分かる素顔や、中学時代に日本一を誓った日、流した悔し涙などを語り合った。【取材・構成=保坂淑子】

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4年ぶり4度目のセンバツ出場を決め、花巻東が誇る主砲の2人は、初めての聖地へ、胸を躍らせた。

田代 「岩手から日本一」という目標を掲げているので、通過点というか、出場するからには日本一になって帰ってきたいね。

佐々木麟 (菊池)雄星さんや(大谷)翔平さんが日本一を取るためにやってきた姿を見ていますし、その中でも実現できなかった日本一。センバツに出場できることに感謝しつつ優勝を目指したいです。

同じ金ケ崎シニア出身の2人。当時は田代が3番、麟太郎が4番。今とは逆の打順だった。

田代 麟太郎は1つ下なのに、当時から仲がよくて、練習もよく一緒にしていたね。

佐々木麟 僕が金ケ崎シニアに入団したとき、最初に話しかけてくれたのが旭さんだったんですよね。心強くて、この人について行けば間違いなく成功に導いてくれると信じて野球に打ち込めました。

田代 2人で花巻東に行って、全国制覇しようって話したよね。

佐々木麟 はい、約束しましたね。その約束があったからこそ頑張れたんです。旭さんが花巻東に進学して、自分も早く一緒にプレーしたい、旭さんに追いつこうと、中2冬に打撃フォームを変え、頑張った中3の1年間が成長のきっかけになりました。

田代 自分はその1年間(高1)が、一番苦しかった。打撃に自信をもって入学したのに全然通用しない。来年は、麟太郎が入学してくる。もう1度、2人で3、4番を組みたい。このままじゃダメだと思って、練習後も自主練習を頑張った。グンと成長できた。

昨年、佐々木麟が花巻東に入学。秋には佐々木麟が3番、田代が4番と並んで打席に立ち、東北大会制覇、神宮大会4強を果たした。

田代 やっと3、4番と並んでプレーができるようになったのに、東北大会前は自分が調子悪くて、麟太郎が頑張ってくれた。神宮大会の前は逆。お互いにカバーしたよね。

佐々木麟 はい、神宮大会の前は、調子が悪くて苦しくて…。旭さんに支えてもらいました。

田代 麟太郎は打てなくなると、いつも(同校グラウンドの)一塁側のベンチ裏辺りで泣いているんだよね。「もうダメだー」って。そういう時は「大丈夫だよ!」って自分が声をかけにいくんだよね。

佐々木麟 自分、うまくいかないと悔しくて泣いてしまうことがあって…。すぐに感情が出てしまうんですよね。

田代 麟太郎が泣きに行くのは、大体わかるから(笑い)。

佐々木麟 調子が悪い時は、旭さんが一番先に話しかけてくれるんですよね。中学から一緒で、一番気持ちを分かってくれている。本当に頼りにしています。

田代 でも…泣き虫なのは自分の方。そこは自信があります(笑い)。

佐々木麟 主将として背負っているものが大きいからこそ、感情が出るのは当然だと思います。それに、調子が悪い時の旭さんは、人一倍バットを振っている。陰で頑張っている姿を見て、自分も頑張らなければいけないと思うんです。

話をしながら目を合わせニッコリ笑う。そこには先輩、後輩の関係というより、同士であり親友、という言葉がよく似合う。

田代 麟太郎は、普段はとても優しくてニコニコしている。本当に優しい。ご飯を食べる時なんて、本当にうれしそう(笑い)。麟太郎がご飯を食べているところを見るだけで、こっちまで食欲がわいて、ご飯を何杯でも食べられちゃう(笑い)。でも、ひとたび打席に立つと頼りになる。すごい3番打者だよ。

佐々木麟 旭さんも普段は優しいんですが、野球になると「俺がやってやる」と頼りたくなる存在に変わる。自分も後ろに田代さんがいるからこそ、結果を残せたと思います。

田代 麟太郎みたいに、注目が集まる中でホームランは打てないよ。麟太郎は持ってる男!

佐々木麟 チャンスでまわってきて、自分が三振してもその後で田代さんが打って流れを引き寄せてくれる。旭さんの方が持っている男ですよ。

田代 足の速さでは負けないかな(笑い)。

佐々木麟 あ~それは完敗です(笑い)。自分は飛距離では負けたくないですね。

田代 麟太郎のパワーには誰も勝てないよ。多少つまってもスタンドに入るし。

佐々木麟 自分は田代さんの技術がうらやましい。好投手になればなるほど、仕留められる。かなわないです。

いよいよセンバツの舞台。優勝のシーンは、ハッキリとイメージできている。

佐々木麟 甲子園優勝は、この代で田代さんと一緒につかみたい。絶対に取らなければいけないと思っています。

田代 自分も今年にかける思いは強いです。岩手県に春の優勝旗を持って帰ってきます。麟太郎、優勝の瞬間は最初に投手に抱きつくから、ごめんね(笑い)。

佐々木麟 はい、自分は後からいきます!

田代 一緒にマウンドで抱き合おうね!

○…高校通算50発の佐々木麟が3番で、同41発の田代が4番。佐々木洋監督(46)は「田代が後ろにいるのが大きい。逆は考えたことがない」と力を込める。田代が4番にいることで相手は佐々木麟と勝負せざるをえなくなり、また仮に歩かされても、田代の長打力と勝負強さで得点力は上がる。同監督はエンゼルス大谷を例に出し「大谷の後ろにトラウトがいた方が、得点能力が上がるはず」と、現打順に自信を見せた。

◆佐々木麟太郎(ささき・りんたろう)2005年(平17)4月18日生まれ、岩手県北上市出身。幼少時から江釣子スポーツ少年団で野球を始め、江釣子中時代は金ケ崎リトルシニアでプレー。花巻東では1年春からベンチ入り。1年生ながら高校通算50本塁打を誇る注目のスラッガー。184センチ、114キロ。右投げ左打ち。

◆田代旭(たしろ・あさひ)2004年(平16)4月6日生まれ、岩手県遠野市出身。上郷小2年時に上郷野球スポーツ少年団で野球を始め、捕手や投手でプレー。遠野東中時代は金ケ崎リトルシニアで捕手に専念。花巻東では1年秋からベンチ入り。二塁送球は最速1秒82。高校通算41本塁打。180センチ、79キロ。右投げ左打ち。