履正社はあと1点が取れなかった。序盤で2点を先制する理想の展開だった。

3回1死一塁から光弘帆高内野手(3年)が右翼線を襲う三塁打を放って先制した。続く西稜太外野手(2年)も右前に打ち返して、2点目。好左腕の前田悠伍投手(2年)に対して、ともに左打者がクリーンヒットした。

先発のエース増田壮投手(2年)は制球の定まらない立ち上がりをしのいで、波に乗ろうとしていた。

ただ、2点先制したその裏に相手主砲の松尾汐恩捕手(3年)に強烈なソロ弾を浴びた。優位なムードは一瞬で吹き飛ばされた。

多田晃監督(43)は「あそこですぐ1点を返してくるのがすごい」と感服。じわじわと重圧をかけられ、5回に同点とされた。その後の1点が取れなかった。

この春、新しい履正社野球は見せた。前任の岡田龍生監督(60=現東洋大姫路監督)に代わって、4月にコーチから監督になった多田監督。強打に加えて、走塁にも力を入れる。この試合は初回、6回と一塁走者が左腕前田のけん制球に刺されたが、多田監督は笑みを浮かべる。

「とにかく狙っていこうということで。左投手でも走れる練習をしてきた。小西がいい走塁をしましたね。相手のバッテリーにも重圧をかけられたかなと思う」。7回に、代走の小西柚生外野手(3年)が警戒をかいくぐって二盗を成功。1死二塁のチャンスを作った。相手の西谷浩一監督(52)は「岡田先生の時とは違い、いろいろな作戦を仕掛けてくる。若い監督さんの勢いを感じた」と、警戒を強めた。

現チームは昨秋の準決勝で大阪桐蔭に3-5と敗れていた。「春に優勝する。大阪桐蔭を倒す」を合言葉に冬を乗り越えた。念願の一番を前に、選手の気持ちはたかぶった。前日の練習では、監督が全員を前に「普段通りに練習しよう」と伝えたほどだ。

お互い、手の内をしっかりと出した上での1点差。多田監督はすでに先を見ていた。「悔しいです。桐蔭さんはやっぱりいいチーム。粘り強さですね。ちゃんと走者を進められる。野球が上手です。昨秋は3-5。今回は2-3だが、この1点が大きい。ここをどう詰めるか。どうしたら詰められるか、選手たちと話していきたい。今日もベンチの雰囲気はすごくよかった。やるべきことはやってくれたと思います」。

手応えもつかんだ夏の前哨戦だった。【柏原誠】