この夏、愛工大名電(愛知)の山田空暉(てんき)投手(3年)が投じた1球が話題を集めた。八戸学院光星(青森)との2回戦。同点の9回2死、3番打者の初球に投じた超スローボールはストライク判定に。「練習試合の時から投げている。バッターがめちゃくちゃ打ってやろうという時に投げている」。緊迫した場面での遅球に場内がざわつく中、山田は笑顔だった。

最速145キロ右腕の憧れは日本ハム・伊藤大海。「緩急の付け方、思い切りのいい投球スタイル、ストレートの投げ込みを参考にしている」という。伊藤は7月のオールスターで超スローボールを披露しており、ツイッターで山田の遅球に「ナイスボール これストライクになった時の嬉しさわかる民です この展開で投げれるメンタルに脱帽です」と称賛した。ネットニュースでコメントを知ったという山田は「自分が見本にしている憧れの投手。うれしい気持ちが大きかったです」と喜んでいた。

プロも認めたそのメンタル。「集中できる」と応援歌を口ずさみ、プレーする姿にも度量がにじむ。母の公子さん(46)は「人の目を気にしないんで、自分が自由にやってる感じ。だからここに出てても緊張しないんです」と強さの理由を語った。小学生の頃は全国大会を経験。「そういう緊張感は子どもの頃から味わっていた。甲子園も、来るべき所に来たという感じだと思います」と幼い頃からの大舞台の経験も今に生きているという。

物心ついた頃から目標は「甲子園に行く」だった。母は「行きたいではなく、行くと言っていた。甲子園ではプロのスカウトが見てくれるから、プロ野球選手になるために行くと言っていた」と話す。今後はプロ志望届も提出予定。「空よりも大きく、高く、輝くように」と願いが込められた名の通り、右腕の飛躍は続く。【波部俊之介】