日米通算4367安打のイチロー氏(49=マリナーズ球団会長付特別補佐兼インストラクター)が27日、都立新宿のグラウンドで、同校の男子硬式野球部員を前日26日に続いて指導した。

新宿は有数の公立進学校。決してレベルが高い選手ばかりではないがイチロー氏の打撃論はまったく変わらず、熱がこもっていた。

フリー打撃中、左打ちの選手から質問を受けた。「ホームランを打つためステップ幅を大きくするようにと言われているが、そうすると膝が落ちてしまう」という悩み。

最初から最後まで後ろ重心のイメージで打っているという同選手に、イチロー氏は明確な答えを出した。

「ステップしているということは前に移動している。(その上で)後ろに戻すのは整合性がとれない。後ろに残すのであればステップ幅はない方がいい。その方が回りやすい。前に動く、後ろに残すとうのは相いれない形。僕は結構、動きます。でも、この幅(ステップ幅)は変わらない」

同選手が打撃ケージに入っても、指導は続いた。パーカーを脱いで自らの草野球チーム「KOBE CHIBEN」のTシャツ1枚に。オリックス時代の振り子打法にはじまり、現役時代は打撃スタイルが常に注目されていた。自身のスタイルと照らし合わせてアドバイスを送った。

「前からピッチャーの球が動いてきて、受けるのは難しい。ポイントが近くなる。(球との)距離を保ちたいから、かかと重心になって距離を取ろうとする。ステップするなら、多少、こっち(前に重心を持って行く)の力を使った方がいい」と提案した。

自らもティー打撃を実演。これまでと同じように、1球目からフルスイングを披露した。全力で声を上げながらの計16スイング。

「体重移動がほしい。かかと体重では絶対にヒットが出ない。マシンではできても、ゲームでは動いてくる球に対して、受けるのは難しい。手を使わないで、足で回って欲しい。僕はほとんど手を使っていない。打球に力を伝えるのは、ほとんど下半身。(グリップは)支えられるぐらい。上半身は力を抜いて、インパクトに下半身から力を使えるように。僕はそういうイメージ」。

現役時代の打撃フォームを想起させる理論だった。

別の選手からも「体重移動」の質問があった。イチロー氏は「(右)足を上げて、左足に一回(重心を)乗っけておく。ここで待っておけば(後ろに)いきたくてもいけない」などと回答した。

2日目にはフリー打撃の実演もあった。ただ、同校のグラウンドは狭い上に都心にあり、ボールが飛び出さないよう「天井ネット」が設置されている。柵越えはあきらめて「今日はヒットを意識するわ」と全方向に鋭く低い打球を飛ばした。「足を上げるタイミングが遅れると、全部が遅れるので、そのタイミングだけ計る。手を使って(球との)距離を縮めることはない。早く準備して待っています」と明快な解説をつけた。

<過去のイチロー氏の高校野球指導>

◆<1>智弁和歌山(20年12月2~4日)初日は「観察」、2日目から徐々に指導を開始し、最終日にはフリー打撃も披露した。21年の甲子園大会前にも「ちゃんと見てるよ」とメッセージを届け、21年夏にチームは21年ぶりの頂点に立った。

◆<2>国学院久我山(21年11月29、30日)フリー打撃で72スイングし11本の柵越え。三振しない「最後のテクニック」を伝授した。リードの取り方など走塁技術も惜しみなく指導。チームは22年センバツで初の4強進出と快進撃につなげた。

◆<3>千葉明徳(21年12月2、3日)初めて甲子園出場経験のない高校を訪問。ナインだけでなく指導者にも助言。「(練習は)メリハリが大事。ダラダラが怖い」と話し、試合中の采配についても具体的なアドバイスを送った。今夏は甲子園出場した市船橋に4回戦で敗れた。

◆<4>高松商(21年12月11、12日)21年夏の甲子園で智弁和歌山に敗れた長尾監督が「イチローさんにうちにも来てほしい」とラブコールを送って指導が実現。翌年巨人にドラフト1位指名される浅野翔吾(巨人)らを前に、狙いを説明しながらフリー打撃を行うなど手本となって技術を伝えた。「この2日間の時間をたまに思い出してほしい」とティー打撃で使用したバットをプレゼント。同校は今夏の甲子園で8強入りした。