<全国高校野球選手権:八戸工大一8-4英明>◇7日◇1回戦

 スピードスケートで国体7位の実績を持つ八戸工大一(青森)・中村晃大内野手(3年)が、同校初の夏の甲子園勝利を呼び込んだ。英明(香川)戦で、8回1死満塁から勝ち越しの右中間適時三塁打を放った。98年、杉内(現ソフトバンク)を擁した鹿児島実に無安打無得点で完敗して以来、12年ぶり5度目の挑戦だった。

 スピードスケーターでもある中村が、歴史をつくった。4-4で迎えた8回1死満塁。2球目の低めの変化球にうまく合わせ、右中間へ運んだ。走者一掃の3点打。左打席に入る前、長谷川菊雄監督(33)から「ここで打てば歴史が変わる」との言葉をかけられ、まさに八戸工大一を夏初勝利に導いた。

 小3時から野球とスケートの二足のわらじを履いてきた。高1だった09年1月、地元八戸で開催されたスケート国体、スピードスケート男子500メートルで7位入賞を果たした。「スケート連盟がすごく期待してたんで(国体に)行ってみろと言ったんです」(同監督)。その結果スケート界の期待もさらに膨らみ、悩まされることになる。

 「甲子園で日本一になりたい」。2年生になると、その思いが大きくなった。昨秋の県大会は4強止まり。国体の強化選手だったが野球に専念することを決意した。それを指示してくれたのがスケートの技術指導をしてくれていた柳町コーチだった。自身も中村と同じく野球とスケートを両立していた。前回出場した12年前、鹿児島実の杉内投手(現ソフトバンク)にノーヒットノーランを喫した際の主将だった。

 バンクーバー五輪スピードスケート男子500メートル銅メダリスト加藤条治に「頑張れよ」と激励されたこともある。それでも昨秋から野球に専念し、今夏県大会では打率5割7分1厘、12安打8打点と、チーム内3冠で甲子園に導いた。氷上で鍛えた下半身の筋力が打撃に生きている。「甲子園より国体の方が緊張した。それだけ野球の練習をしてきたという証拠です」と満面の笑みを浮かべた。

 12年前の悪夢をぬぐい去ったのも中村だった。2回2死から右前打を放ち、同校としては20年ぶりの甲子園での安打となった。学校の新たな歴史をつくり「バッティングもスケートも前へ前へ攻めていくことが大事」。ロケットスタートに成功した中村が頂点まで突っ走る。【三須一紀】