FA市場やトレードなど選手が大きく動くメジャーのオフシーズンは、GM(ゼネラル・マネジャー)ら球団フロント幹部にとってレギュラーシーズン並みに忙しい時期だが、イマドキのGMが他球団のGMとどのように交渉しているかご存じだろうか。

 彼らは相手とコミュニケーションを取る手段として、かつてのように直接顔を突き合わせて話し合ったり電話で会話をすることはもはやなく、ほとんどすべてスマホのメッセージアプリを駆使して行っている。しかも、メッセージに絵文字を使うのが当たり前で、中にはトレードのオファーに対する返答にGIFの面白画像を使うGMもいるという。小さなトレードはもちろん、どんな大物選手を巻き込んだ大トレードでも、スマホで文字を打ち、絵文字付きで手軽に交渉が行われているそうだ。

 これは、最近のメジャーの球団に若いGMが多いためでもあるだろう。ジャイアンツで97年から14年までGMを務め現在は同球団の編成トップとなっている大ベテランのブライアン・セビーン氏もあるインタビューで「最近の若いGMたちは、テレビゲームが得意だし、愉快なメールを送ってくる」と話している。

 今の若いGMは、米北東部の名門大学8校からなるアイビー・リーグ出身のエリートが多い。全米最古の大学で名門中の名門であるハーバード大卒だけでも、ロッキーズのジェフ・ブリディッチGM(40)、ブルワーズのデービッド・スターンGM(33)、マーリンズのマイケル・ヒルGM(46)、アスレチックスのデービッド・フォース(41)と4人もいる。だが大学時代は勉強漬けというわけではなく、多くは野球部に所属して選手経験があり、無類の野球フリークという印象だ。

 彼らには、好きなことを仕事にしている人たち特有の、遊び心のようなものがあるのだろう。絵文字やユニークなGIFの画像を使ったコミュニケーションも、その1つかもしれない。「絵文字は目上の相手が先に使うまで、自分から使ってはいけない」などのマナーが米国にもあるそうだが、いったん使い始めると絵文字は便利。GM同士のトレードの交渉では自分の球団にとって損な取引をするわけにはいかないのでシビアなやりとりもしなければならないだろうが、絵文字は言葉のトーンをやわらげるのにも役立つ。ライバル球団だろうとフレンドリーにつきあうのが最近のGMたちの傾向で、かつては同地区同士のチームでトレードを行うことは避けられていたが、今は同地区ライバルとの取引も多くなっている。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)