多くのFA選手の契約が決まらず年が明けても「売れ残り」選手が大量発生していた昨オフ、何人もの選手が代理人への不信感を募らせたが、そのせいか今オフは、代理人を雇わず自分で契約交渉を行う選手が現れた。ヤンキースからFAとなった救援右腕デービッド・ロバートソンだ。FAになってから2週間が過ぎた頃に大リーグ公式サイトのインタビューで自身の交渉ぶりについて語っており、なかなか興味深かった。

それによると、FA開始から約2週間で接触してきたGMは6人以上。最初の接触は大抵、他球団との交渉の進み具合などについて探りを入れられ、互いのニーズについて感触をつかみ合うことから始まったという。現在33歳のロバートソンは3年契約を望んでいるそうだが、接触してきたGMに対しては選手として最も気になる「もし自分が入団した場合、どのような役割を任せられるのか。チーム編成はどのようなものになるのか」をまず質問。そしてもう1つ、ロバートソンにとって重要なのが、家族にとっての環境だ。メジャーの球場には、試合前後に家族が利用する「ファミリールーム」が選手のクラブハウスのそばにある場合がほとんどで、球場によっては広い部屋に子どもの遊具や大画面テレビなど設備が充実したところもある。そこでロバートソンは「本拠地球場のファミリールームはどうなっていますか?」と必ず聞いているのだという。交渉中のGMとは何度も電話やショートメールをやりとりし、他の救援投手の交渉状況や契約についても情報収集しながら交渉を進めているようだ。

かつては、アスレチックスやエンゼルスなどで2017年までプレーした元投手ヒューストン・ストリート氏が、代理人を立てずに自分で交渉していたことで有名だった。同氏は現役時代から故郷のテキサス州オースティンで不動産投資をして成功しており、交渉や契約ごとに適性があったようだ。プリンストン大卒で身長208センチの長身投手として知られたクリス・ヤング(元ロイヤルズ)や、元巨人の桑田真澄氏が2007年にパイレーツに移籍した際も代理人に頼らず自ら交渉している。とはいっても以前は、交渉ごとに慣れない選手が代理人に任せないと不利な契約を結ばされかねないといわれ、自力で交渉するのは一握りのごくわずかな選手だけだった。

しかし今のメジャーはデータ時代。選手もデータで多角的に分析、評価され、契約金や年俸もデータや市場の大きさによって相場が決まってくるので、かつてよりは選手が自分自身の相場を理解しやすくなっている。自分で交渉しようという選手にはやりやすい時代ともいえるため、ロバートソンが代理人なしで成功すれば追随する選手も出てきそうだ。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

桑田真澄(2007年6月28日撮影)
桑田真澄(2007年6月28日撮影)