野球のイスラエル代表チームが、来年の東京五輪に、日本を除く参加5カ国のうちで出場一番乗りを決めた。

欧州アフリカ五輪予選に出場した6カ国中、大本命のオランダや強豪スペインを押しのけての1位は相当なサプライズだった。イスラエルは野球で五輪出場が初というだけでなく、チームスポーツで出場するのは1976年にサッカーで出場して以来44年ぶりだということで、国内でも結構話題になっているようだ。代表チームにはメジャーで9年プレーしたダニー・バレンシア内野手(35)がいるため、米国の野球メディアでも大きく取り上げられ、注目を集めている。筆者もメジャー時代のバレンシアを何度か取材しているため、このサクセスストーリーには胸を躍らせている。

メジャー時代のバレンシアは、目立つ選手ではなかったが、いつもニコニコしていて努力家という印象だった。プロ入りしたのは06年ドラフトで、ツインズから19巡目(全体576位)と下位の指名だったが、そこから翌年には1Aリーグのオールスターに選ばれるまでになり、5年でメジャー昇格を果たしていることからも、その努力の跡がうかがえる。メジャー9年の間にオリオールズやマリナーズなど7球団を渡り歩き、最後の18年に古巣オリオールズに戻り78試合に出場した後、8月に戦力外でFAとなっていた。その後どうしていたのか、名前を聞かないと思ったら、イスラエル代表として五輪出場へ情熱を注いでいたのだ。努力によって常に下馬評を覆してきたバレンシアの野球人生は、サプライズを起こしたイスラエル代表チームとそっくり重なる。

バレンシアはフロリダ州マイアミで生まれ育ち、母はユダヤ系米国人、父はキューバからの移民だが後にユダヤ教徒になったており、自身もユダヤ人として育っている。イスラエル代表として五輪を目指すに当たり、大会直前に国籍を取得し、五輪予選前に行われた欧州選手権に出場する直前にイスラエルのテルアビブでパスポートを受け取ったという。五輪予選では、5試合でチーム最多の3本塁打を含む6安打7打点と活躍し、出場権獲得に大きく貢献。決定直後から自身のツイッターアカウントに祝福のメッセージが殺到し、その1つ1つに返事をする様子に人柄が表れていた。

イスラエルは人口約900万人、そのうち野球人口は1000人程度と、国内ではマイナーなスポーツだが、バレンシアのようなユダヤ系米国人が複数加わり、強い意気込みで代表チームを引っ張ってきた。五輪本番でもサプライズを起こせるのか、気になる存在だ。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

13年9月、バレンシア(左端)に中越えの三塁打を打たれたレッドソックス上原(右端)
13年9月、バレンシア(左端)に中越えの三塁打を打たれたレッドソックス上原(右端)