キム・アング氏(51)のマーリンズGM就任で北米スポーツ界初の女性GMが誕生し、球界だけでなく米国のあらゆる世界で祝福の声が上がり、盛り上がっている。

ヒラリー・クリントン元国務長官(73)、ミシェル・オバマ元大統領夫人(56)、女優のアリッサ・ミラノ(47)、アジア系米国人作家のセレステ・イング(40)ら各界で活躍する女性がツイッターで祝福を寄せており、その影響力は野球界、スポーツ界にとどまらないということを実感する。

女性初というだけでなくアジア系米国人としても初ということで、アジア系コミュニティーの間でも歓喜の声が上がっている。米経営学誌ハーバードビジネスレビューの調査によると、アジア系米国人が管理職に抜てきされる確率は他人種と比べて最も低く、白人の半分だという。それだけにこの抜てきを称賛し、自分のことのように喜ぶアジア系米国人は多い。

MLBを長く取材してきて、これまでさまざまな「初」を見てきた。初の「女性リポーター」は筆者が取材を始めた頃にはすでに存在していたが、初の「女性審判」、初の「女性トレーナー」、初の「女性コーチ」、全米野球記者協会の初の「女性会長」、初の「女性野球実況解説」等々。女性初だけでなく、初の「ヒスパニック系監督」、初の「ヒスパニック系GM」など、米国内でマイノリティーと呼ばれる人々が重要なポジションに抜てきされるのを何度となく見てきた。それでも米スポーツ界ではマイノリティーの雇用が進んでおらず、MLBにはそうした人々の雇用実態を調査し監視する機関があり、雇用推進を行っている。

しかし女性の1人として、そうした雇用推進の流れで女性が抜てきされればうれしいかといわれると、そんなことはない。人種や性別に関係なく、能力を正当に評価されることが何よりもうれしいと思う。

アング氏が非常に優秀な方であることは、周辺で取材をする我々記者の耳にも届いていた。同氏はシカゴ大学卒業後にホワイトソックスでインターンとして働き、1年後に正規職員となり、その4年後の95年に編成部ディレクター補佐に抜てき。98年からヤンキースのGM補佐として長年ブライアン・キャッシュマンGM(53)を支え、01年にはドジャースのGM補佐に就任した。ヤンキース時代の同氏は「年俸調停のプロ」と評され、選手からも信頼が厚かった。

アング氏をGMに抜てきしたマーリンズのデレク・ジーターCEO(46)は、現役時代はヤンキース一筋に20年間プレーし、アング氏を熟知している。これまでいくつもの球団のGM候補になってきた同氏がついに夢をかなえたのがジーターCEOの球団というのは、これ以上ないというほど相応しいと思う。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

マーリンズGMに就任したキム・アング氏(ロイター)
マーリンズGMに就任したキム・アング氏(ロイター)
マーリンズGMに就任したキム・アング氏(ロイター)
マーリンズGMに就任したキム・アング氏(ロイター)