今季から導入される新ルール「ピッチクロック」をスプリングトレーニングの試合でやってみた結果、思わぬ方向に影響が及び話題になっている。MLBにとっても不測の事態だったようで、慌てて各球団に追加通達まで出すこととなった。

まずキャンプが始まる前に米メディアでしきりに話題になったのは、投手に対する影響だった。走者なしで15秒、ありで20秒の投球時間制限となるが、これまでのデータでその時間を超える投手は何人もおり、適応できるかどうかに注目が集まった。

ところがオープン戦が始まりふたを開けてみると、ピッチクロックに付随する「打者は制限時間の残り8秒までに打席に入り、投手の方を向き構えなければならない」というルールに、打者側が意外と無頓着なため違反を取られるケースが目立った。これを有利に使おうとしているのがメッツの先発右腕マックス・シャーザー(38)らベテラン投手。これまでの常識だった捕手から投手に出すサインを、投手から捕手に出すことでサイン交換にかかる時間を短縮し、打者が構えたタイミングで即投げることもできるようにした。打者のタイミングを狂わせて、投手有利に持ち込むという戦略だ。

しかしこのシャーザーの試みが話題になった直後、MLB機構がすぐに全球団に対し文書で通達を出したという。MLB公式サイトのマーク・フェインサンド記者によると、それは「打者が完全に構える前に投手が投げた場合、フライングを取り走者なしならボール、ありならボークとする」というものだ。投球時間を短く制限したところ、早すぎの制限もしなければならなくなったというのは何とも皮肉だ。

ただし投手はみんな自分からのサイン出しを認められるわけではない。実績ある投手やベテランは認められるだろうが若手は認められなかったり、球団によっては認めない方針だったりもする。例えばタイガースは、先発左腕エデュアルド・ロドリゲス(29)が自らサインを出したがっているが、ヒンチ監督は「サイン出しは捕手のものでも投手のものでもない。共同作業」と、認めない考えを示している。

また、投手がサインを出すことで思わぬトラブルも起きている。ツインズ前田健太投手(34)が2月25日のレイズ戦に登板した際、捕手のイヤホンからサインの音声が打者に筒抜けとなってしまった。これは音量の問題というより、球場のせいだったのではないかと思う。このときはレイズの本拠地で試合が行われており、観客がほとんどいないため静寂に包まれ、ドーム球場なので音もよく響いた。今後、スタンドのファンがひいきチームのチャンスで静まり返るという応援スタイルができたとしたら、かなりシュールだ。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「水次祥子のMLBなう」)