19年シーズン、ドジャース前田健太投手(31)の戦いはナショナルズとの地区シリーズ敗退で終わった。「悔しい」と何度も口にした一方で、「自分の力はしっかり出せた」と胸を張った。プレーオフでは右打者キラーの中継ぎとして活躍。4試合で4回2/3を投げ防御率0・00の結果だった。

代名詞とも言えるスライダーが理想に近づいていたから、右打者へ盤石の投球ができた。「ここ2年くらい、スライダーが完璧ではなかった。今年は、いいときに戻せた感じはある」。17年シーズン途中から、中継ぎに配置転換されるようになった。短いイニングを全力投球。直球の威力が増したことでスライダーの球速も同様に上がった。だが球速が速いカットボールのような軌道は本来のマエケンスライダーではなかった。「理想は83、84(マイル)、出ても85くらい。一番それが空振りをとれる」。

17年、先発時のスライダーの平均球速は83・9マイル(約135キロ)で、中継ぎに回ったプレーオフでは86・2マイル(約139キロ)に上昇した。一方、19年シーズンは先発でも中継ぎでも83・5マイル(約134キロ)ほどに安定。リリーフで好結果を残したプレーオフでは84・7マイル(約136キロ)だった。わずかなスピードの改善で、本来の精度を高めた。

繊細な感覚が、その微調整を可能にする。「球場やボールによって感触のいい投げ方を探しますね。湿気がある、ないで曲がり方も違う」。天候でも変わるボールの握り心地を感じ取り、自在にコントロールする。「投げながら、その時の状態によって」と、臨機応変に対応できるという。

いくつかのポイントを踏まえながらも、最も大事とすることが打者の反応だ。「自分の感覚が同じでも、バッターの見え方が違う時もある。こう曲がってくれとかではなくて、空振りしてくれるんだったらそれでいい」。シーズン終盤の9月下旬、ジャイアンツのある打者は「捉えたと思って振ったら、ボールに当たらなかった」と証言。空振りをとれる、前田が求める理想のスライダーだった。

来季はメジャー5年目となる。30代を迎えても「毎年、毎年、成長できている」とレベルアップを実感する。「体的には問題ない。それが強みかなとも思う。いつまで(野球が)できるか分からないので、頑張りたい」。シーズンを通した先発ローテーションの確保へ。常に挑戦を続ける前田の姿は頼もしく映る。【斎藤庸裕】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「ノブ斎藤のfrom U.S.A」)