まさに、敵地のスタンドを沈黙させる快投でした。ヤンキース田中将大投手(30)がア・リーグ優勝決定シリーズ(ALCS)の第1戦に先発し、公式戦でメジャー最高打率2割7分4厘を記録したアストロズ打線を相手に、6回1安打無失点に封じました。その後、救援投手も踏ん張り、4人で完封リレー。会心の勝利で好スタートを切りました。

この田中の快投が、敵地を沈黙させただけでなく、本当に眠らせてしまったことで注目されました。

アストロズの本拠地ミニッツメイドパークの左翼席上部には、オレンジを積み込んだ蒸気機関車(SL)が設置され、同球場のシンボルマークとして知られています。試合中にアストロズの打者が本塁打を放ったり、劇的な攻撃をすると、鐘を打ち鳴らし、ごう音のような汽笛を響かせながら約25メートル動くのですが、第1戦では完封されたわけですから、列車が動くことはありませんでした。

しかも、試合はヤンキースが7-0とリードする一方的な展開となったせいか、9回になると、なんと機関車の運転士がウトウトと居眠りをしてしまったのです。通常は、チャンスを迎えると、機関車から乗り出してスタンドのファンを鼓舞したりするのですが、この日はチャンスらしいチャンスもなく、いわば“開店休業”のような状態。球場内を静まり返らせ、さらに、運転士を眠らせてしまうほど、田中の投球は完璧だったということです。

その一方で、この勝利はただの1勝以上の価値をもたらす可能性を含んでいます。というのも、ポストシーズンに入ると、敵地で勝つことは公式戦以上に難しくなると言われます。実際、同じ組み合わせとなった2017年のALCSでは、アストロズ、ヤンキースとも敵地では勝てず、本拠地で全勝。ホームフィールド・アドバンテージを持っていたアストロズが4勝して、ワールドシリーズに進出しました。実際、アストロズは今季の地区シリーズ(対レイズ)でも、ヒューストンで3勝(敵地で2連敗)と、本拠地で圧倒的な強さを見せていました。

そのあたりの事情は、登板前の田中も十分に理解していました。

「レギュラーシーズンもそうですけど、ホームチームが有利に働いているところがあると思う。逆にそこをゲーム1(第1戦)で取ることができたら、また勢いに乗れるんじゃないかと思います」。

ヤンキースは第2戦でサヨナラ負けを喫しましたが、敵地で1勝1敗は“御の字”。しかも、アストロズ打線は、2試合でわずか3得点と、本来の破壊力を発揮できていません。

最終的にどんな結果になるかは分かりませんが、敵地を眠らせた田中の快投が、シリーズ全体の流れを落ち着かせたことは間違いなさそうです。【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)