近年のメジャーでは、セイバーメトリクスやスタットキャストなど、最新のテクノロジーを利用したデータ分析野球が浸透し、ほぼ全球団が数字に基づいた戦術、戦略を駆使しています。

対戦相手との相性などで打撃オーダーを決定し、継投でもデータを重要視する傾向が定着しています。これらのテクノロジー野球と対比されるものとして、昔かたぎの「オールドスクール」のスタイルが過去の遺産のように受け取られている節があるようですが、果たしてそうでしょうか。

昨オフ、これまでの組織的なサイン盗みが発覚し、首脳陣が解任されたアストロズを率いることになったダスティ・ベーカー監督は、球団が主導するデータ野球を尊重しつつ、今も「オールドスクール」の姿勢を大切にしています。そこには、机上では計算できない選手の心を思いやる精神があるような気がします。

ア・リーグ優勝決定シリーズ第2戦で、失点につながる手痛い失策を犯したアルテューベが、ベンチに戻ってきた時のことでした。最前列で出迎えた71歳の老将は、落ち込んでいた小兵の内野手を、両手を広げて抱きしめました。「そんなことは忘れてしまえ。(トイレに)流してしまえ。お前はうちに必要な選手なんだから」。アルテューベは続く第3、第4戦で第1打席に本塁打。ミスを引きずるようなことはありませんでした。

3連敗で迎えた同シリーズ第4戦では、4-2と2点リードで迎えた6回1死一、二塁のピンチを迎えた場面で、ベーカー監督はマウンドへ向かいました。絶対に負けられない一戦でもあり、データ通りであれば被打率が急激にアップする打者3巡目。当然交代かと思いきや、数分間言葉を交わすと、そのままベンチへ戻って行きました。

この続投を、09年にサイ・ヤング賞を獲得し、通算208勝の先発右腕グリンキーが意気に感じないはずもありませんでした。「僕に自信を持ってくれている誰かがいるということはナイスだ。ここ(アストロズ)に来て以来、彼らは僕の能力に自信を持っているようには見えなかった。こんな大事な時期に、こういうことが起こるのはナイスだね」。期待に応えたグリンキーは、後続から2三振を奪い、無失点でフィニッシュ。めったに感情を表さないグリンキーが、ダッグアウトで満面に笑みを浮かべていたのは、とても印象的な光景でした。

ナショナルズ時代、ベーカー監督は剛腕シャーザーの続投を、目の色を見て判断したと言います。茶色であれば交代でしたが、青色であったので続投を決断したそうです。その根拠は定かではなく、ベテラン監督特有の比喩のようにも聞こえますが、少なくともデータで計ることのできる領域ではありません。

今の時代、テクノロジー野球は正論かもしれませんが、グラウンド上でプレーする選手は、あくまでも感情豊かな人間です。「オールドスクール」の人間臭さに、郷愁だけでなく、あらためて野球の奥深さを感じるのは時代遅れなのでしょうか。【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)