今季限りでユニホームを脱ぐ西武松坂大輔投手の引退セレモニーは、イチロー氏がサプライズで登場したこともあり、米国のSNS上でも動画が流れるなど話題を集めました。2人の絆がにじむ光景に、米国ファンからも「上品」「クール」などの感想が寄せられました。

というのも、メジャーには基本的に引退セレモニーの習慣はありません。1939年、現役中に「筋萎縮性側索硬化症」のため、引退を余儀なくされたヤンキースのルー・ゲーリッグの最終試合を「感謝デー」として行った例はありますが、ほとんどの選手が静かに第一線から退いていきます。2013年、ヤンキースが引退していた松井秀喜氏と「1日契約」を交わし、本拠地ヤンキースタジアムでセレモニーを行ったのは、メジャーでも異例のことでした。2019年、東京ドームでの日本開幕戦が、イチロー氏の現役最後の試合となったのも、特殊なケースと言えるでしょう。

近年では、カル・リプケンJr(オリオールズ)、マリアーノ・リベラやデレク・ジーター(いずれもヤンキース)らのように、開幕前にそのシーズン限りでの引退を発表するケースも増えてきました。優勝を目指すチームの一員が事前に引退を発表することには賛否が分かれていますが、各遠征先の球場はスーパースターの最後の勇姿をひと目見ようとするファンで膨れあがるため、興行的にも受け入れられています。さすがにスピーチはありませんが、各地での最終試合の前には、相手球団から記念品が贈られるなど、ちょっとしたセレモニーが行われることもあります。

すでに名捕手ヤディエル・モリーナ(カージナルス)は来季限りで、12年3冠王のミゲル・カブレラ(タイガース)は8年契約が満了となる23年での引退を表明しています。事前発表が許されるような選手は、将来的な野球殿堂入りが確実視される名選手ばかりで、野球ファンのだれからも貢献が認められています。

今回、イチロー氏と松坂の感動的な光景が米国でも報じられたことで、ひょっとすると、今後は日本のような引退セレモニーが広がるかもしれません。【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)