MLBでは今シーズンからいくつかのルールが変更される。投手は捕手の返球を受けてから走者がいないときは15秒、いるときは20秒以内に投球動作に入らなければいけないという「ピッチクロック」が導入される。さらにけん制やプレートを外すことも2回までに制限され、3回目のけん制が失敗すれば走者には進塁が与えられる。また内野守備シフトが禁止され、2塁を挟んで2人ずつの選手が守備につかなければならない。

最初の2つのルール変更は主に試合時間の短縮を狙ったものだ。平均3時間を超える試合時間は特に若者層を不人気とされ、MLBは近年試合時間の短縮に取り組んできた。マイナーリーグではこの新ルールが約8000試合でテストされ、平均26分短縮されたということだ。またけん制の制限により盗塁の試みが0.6回増えたという。

一方でピッチクロックが大きな影響を与えるかもしれない関連産業がある。スポーツベッティング(スポーツ賭博)だ。アメリカではスポーツベッティングの合法化が拡大中で、現在32州で合法化している。一大成長産業となっているのだ。

そしてオンラインでの賭けが活発になるなか、増えているのが試合進行中に賭けを行うインゲームベッティングだ。例えば次の投球がストライクになるかボールになるか打たれるか、次の打席がヒットになるかアウトになるかといったことに賭けるものだ。MLBを対象としたインゲームベッティングは全体の3分の1を占めるまでになっているという。

ピッチクロックの導入で投球間隔が短くなると投球結果を対象としたベッティングに賭けられる時間がそれだけ短くなってしまうのである。予測分析プラットフォームのnVenueの共同創設者兼CEOのケリー・プラチャ氏によれば人が賭けを読み、消化し、選択し、納得するには、少なくとも8秒かかるのだとか。賭ける側だけでなく、ベッティング企業は掛け率の提示なども行わなくてはいけないため、15秒の投球間隔ではかなり難しいと言わざるを得ない。

スポーツベッティング企業ドラフトキングスのオペレーション ディレクター、ジョニー・エイベロ氏はこの点を認め、「もしかしたら、すべての投球に賭ける機会を提供できないかもしれません。この一球はダメだけど、次の投球の結果は、となるかもしれません。もしかしたら、投球に賭けることをやめるかもしれません。まだわかりません。しかし我々は確実に機能させます」と改善に取り組むことを明かしている。

果たしてルール変更がどんな影響を生むことになるのか、試合そのもの以外にも注目していきたい。