マリナーズ菊池雄星投手(28)が、2020年にかける思いを語った。2019年は、米国デビューだけでなく、父の死、第1子誕生など公私にわたり、激動の1年を送った。

菊池、マ軍ともに躍進を期す今季。書き初めに「昇」としたため、メジャー2年目でのさらなる飛躍を誓った。【取材、構成=四竈衛】

20年にかける菊池の思いは、ひときわ強かった。メジャー1年目の昨季は6勝11敗、防御率5・46。メジャー3位タイの36本塁打を浴びるなど、苦しみ、もがき、世界最高峰の力を痛感した。

「レベルがとんでもなく高い。本当の主力は、全てがそろっている選手ばかり。負けられない試合の中で集中力が出る時に出すパワーは、ちょっと段違いという気がします」

だからといって、へこんでいるわけではない。むしろ、持ち前の負けん気をかき立てられた。シーズン後の一時帰国を経て、昨年11月中にはキャンプ地アリゾナ入り。早くも本格的な自主トレを開始し、ブルペン投球を行うなど、異例のハイペースで調整を続けている。

「自分の足らないところ、課題が見つかり、逆にこうすればこの世界で生き残れる、みたいなものも同時に感じて、最初の1年間を無駄にしたくない、という気持ちでやっています」。

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19年は、菊池の人生にとって大きな分岐点となる1年だった。1月3日、マ軍と正式契約を結び、シアトルで初めてメジャーのユニホームに袖を通した。

「もう入団会見から1年たったと思うと、アッという間でした」

その会見に駆け付けた父雄治さんが、3月31日に他界(享年59)。直前の同21日、菊池が東京ドームで行われたアスレチックスとの開幕2戦目でデビューするのを待っていたかのように、天に召された。晴れの入団会見が、親子にとって最後の対面となった。

「よくないことは知っていたので、心の準備はしてましたけど、切り替えるのは難しかったです」

米国での開幕後だったこともあり「生前、父は私に野球に専念し、そのままチームの勝利のために頑張ってほしいと言っていました。残りのシーズンを父にささげたい」と、葬儀には参列しないと決めた。今オフに帰国すると岩手・盛岡の自宅へ直行。この日まで待っていた納骨をし、墓前でシーズンの報告を伝えた。

「大きな夢を持って頑張って、と常に言ってくれる父でした。小さくまとまってほしくないし、大きい夢を持ち続けてと、死ぬ間際まで話していた。野球に限らず、大きな世界観で、広い視野で、周りの目は気にせずに、自分の好きなことをやれるように、そういう人生を生きてほしいという話をしていたので、その言葉を思い出しながら墓参りをしました」

悲しいこともあれば、うれしいこともあった。まるで父と入れ替わるように、7月8日に長男が誕生。嶺雄(れお)と名付けた。

「本当に尊敬する父親でしたので、悲しみも大きかったんですけど、新しい命が本当にかわいくて、オフシーズンはトレーニングに集中して、帰ったらずっと遊んでいたい。妻にも感謝したいです」

父となり、新たな思いも感じるようになった。

「息子を目の前にすると、全てを忘れられる。自由にやりたいことをやらせてあげたいし、のびのびと大きな夢を追えるように、そういう邪魔はしたくないという思いでいます。自分の人生を生きてほしいと思います」

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新たな出会いもあった。憧れ続けていたイチロー氏と同じグラウンドに立った。同氏の引退後、本拠地での試合前には、初動負荷マシンで一緒に体を動かすことが日課となった。有形無形の刺激が、財産だった。

「どこがすごいって、うまく表現できないくらい、すごいです。本当に感動する時とか、本当に驚いた時って、言葉にできないじゃないですか。そんな感覚です。毎日、一緒にトレーニングさせていただいて、初めてイチローさんに会った、あの時の感覚のまま、毎日ドキドキして緊張して、本当に夢のような時間を過ごさせてもらっています」

昨季は成績には満足できない一方で、32試合に先発。年間を通してローテーションを担った。体力だけでなく、精神的なスタミナの重要性も実感した。

「1年間やってみないと分からないしんどさってあると思いました。2カ月勝ち星がなかったり、気持ちの部分ではすごく難しかった。ただ、32試合投げられたことは、2年目以降に絶対生きると思いますし、簡単なことではないと思います。それを経験できたということは、長い目で見た時にすごくプラスになるのかなと思います」

まだ28歳。自らを発展途上と表現し、伸びしろを信じて汗を流す。

「僕は常にこの先にピークがあると思ってやっています。まだまだ伸びると思います。体力的、技術的、精神的にも、ここからと思って毎年やっている。その気持ちが消えない限りは40歳になっても戦えると思っています。毎年野球が楽しくなるし、毎年難しくなるんです」

メジャーの投手として、父として、夫として-。たゆまぬ向上心を持ち続ける菊池は、2020年への意気込みを、力強い筆跡で「昇」としたためた。