メジャーの「サイン盗み疑惑」が深刻な事態となっている。昨年11月、敏腕記者の告発に端を発して調査が始まり、アストロズ、レッドソックス、メッツが監督を解任。「クロ」が確定したア軍には、500万ドル(約5億5000万円)という罰金が科された。収束の気配を見せず、長いメジャーの歴史でも類を見ないスキャンダルに発展している。ここまでの経緯を整理する。

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アストロズのサイン盗み疑惑が注目されたのは、米スポーツメディア「ジ・アスレチック」のケン・ローゼンタール記者らによる告発記事が発端だった。

17年にア軍に所属していたファイアーズ投手(現アスレチックス)らの証言を引き出したことで、うわさレベルだった疑惑に信ぴょう性が増し、問題提起となった。これは、ステロイドスキャンダルが最初に起こったときと同じだ。意識の高いジャーナリストが球界に一石を投じるため、衝撃的な記事を書く。同記者も「ハイテクサイン盗みは球界全体の問題」と書いている。

筆者の取材経験から思い返すと、MLBも7~8年前まではまだ素朴な“ゆるさ”があった。例えば、かつては試合のテレビ中継で捕手がサインを出す場面をアップ映像で流すことが多かった。だが何年か前から捕手のサインはほとんど映さなくなり、映しても遠めだけ。敵のサイン解析に使われるのを避けるためと聞いたことがある。テレビでサインは映さなくなったが、サイン解析自体が今も続いているとしても、不思議ではないだろう。

高性能な電子機器は、今やどのMLB球場にもある。今年のワールドシリーズ中、アストロズがベンチ裏の通路にモニター付きの機器を設置していたことを示す画像が、つい最近SNSで拡散されていたが、ベンチのすぐ裏にパソコンなどを設置している球団は他にも見たことがある。それらがサイン盗みに使われているとは思わなかったが、今の野球環境の中にハイテク機器が入り込んでいることは、ここ数年でますます強く感じている。【水次祥子=19年11月21日付・We love Baseballを再掲載】

<スキャンダル経緯>

▽19年11月12日 米スポーツメディア「ジ・アスレチック」のケン・ローゼンタール記者が、アストロズのサイン盗みを暴く記事を掲載。15~17年にア軍に所属したファイアーズ投手(現アスレチックス)が本拠地球場のセンターに設置したカメラで相手捕手のサインを盗んでいたことを実名で告白。コーラ前レッドソックス監督らも関与と伝えた。

▽同14日 MLBがサイン盗み疑惑についてアストロズを調査すると発表。

▽20年1月7日 ローゼンタール記者が、今度はレッドソックスが18年にいかにサイン盗みのシステムを構築したか暴露する記事を発表し、MLBがレッドソックスも調査開始。

▽同13日 MLBが9ページに及ぶア軍調査結果を発表し、ヒンチ監督とルノーGMの1年間職務停止、500万ドルの罰金、ドラフト1、2巡目指名権2年間剥奪を発表。

▽同13日 ア軍オーナーがMLBの処分発表を受け、ヒンチ監督とルノーGMの解任を発表。

▽同14日 レッドソックスがア軍コーチ時代にサイン盗みを主導したコーラ監督の解任を発表。

▽同16日 メッツがア軍の選手時代にサイン盗みを主導したベルトラン新監督の辞任を発表。球団の説得によるもので、事実上の解任だった。