メジャーの試合が不慮の出来事により突然キャンセルされるのは、最近では01年に1度経験している。9月11日の米中枢同時テロで、多くの犠牲者を出したテロに全米が消沈し、社会が大混乱に陥った。

暗い出来事があったとき、全米の多くの人に明るい話題と元気を与えたのは、ベースボールだった。

米国でプロスポーツといえばNFLやNBAの方が人気が高いが、野球は米国人にとってより身近であり、球場に足を運べばファンも参加する感覚で一緒に楽しめる。「ナショナルパスタイム(国民的娯楽)」と呼ばれるゆえんだ。

「911」のときは、1週間の中断の後に試合が再開され、各球場で犠牲者追悼とテロ現場で活躍した警官や消防士らをねぎらうセレモニーが盛大に行われ、野球ファンだけでなく一般市民が、一緒にセレモニーに参加したくて球場に集まった。

困難な時期には、球界を盛り上げるヒーローが必ず登場した。94年から95年にかけてストライキが行われたときは、日本からメジャーに挑戦した野茂英雄氏(51)がドジャースで活躍。「ノモマニア」と呼ばれファンを熱狂させた。ストライキでファンからそっぽを向かれたMLBの救世主とまで称されたのが野茂氏だった。

「911」の年は、ちょうどイチロー氏(46)が日本人初の野手としてマリナーズでデビューし、新人王とMVPに輝く活躍。不思議な巡り合わせだが、いずれも日本人選手が球界を盛り上げる大きな役割を担った。

新型コロナウイルスで球界が大ダメージを受けた今季は、誰がヒーローになるのか。二刀流として復活することで今から注目を集めているエンゼルス大谷翔平投手(25)も候補になるのではないか。開幕は先になったが、その分楽しみは大きくなると考えてシーズンを待ちたい。【水次祥子】