「投手・大谷」に何が起きていたのか-。メジャー3年目を終えたエンゼルス大谷翔平投手(26)。二刀流復活が期待された今季は右肘の屈筋回内筋群の損傷で、わずか2試合の登板に終わった。右肘のトミー・ジョン手術から約1年10カ月ぶりの登板となった7月26日のアスレチックス戦は1死もとれずに降板。8月2日アストロズ戦は2回持たず、被安打0で2失点。右腕の違和感でマウンドを降りた。オンラインでインタビューに応じた大谷の言葉から“あの時”を深掘りした。【取材・構成=斎藤庸裕】

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693日ぶりの公式戦で投じた第1球。大谷には92・5マイル(約149キロ)直球に前向きな感覚があった。

「リハビリの感じからしたらそんなに悪くない、今まで通りのブルペンの球という感じ。まずまずかな」

しかし、その感触はすぐに打ち消された。登板2戦で80球、防御率37・80。結果を受け止めて言った。

「2試合に言えるのは、やっぱり、気持ちよく腕が振れていないな、と。ただシンプルに。メカニックも含めた投げ心地が良くない。その一点なので」

強調した“投げ心地”の悪さ-。球数を重ねれば重ねるほど、その違和感は強くなっていった。

◆7月26日アスレチックス戦 1回途中3安打3四球5失点 球数30球

「まずまず」と感じた初球。続く2球目の直球を簡単に中前へ運ばれた。

「それなりの、別にそんなに調子の悪いってこともないし、ただ単に甘くて打たれたんだなって」

先頭セミエンは「それなりの」2球でストライクゾーンにまとめたが中前打。そしてボールは荒れた。2番ラウレアーノへは抜け球が4球、引っかけた球が1球。3番チャプマンには抜け球2球と引っかけ3球。ともに歩かせた。徐々に「そんなに悪くない」という感覚は消えていく。4番オルソンへの5球目。外角ギリギリへの直球がボール判定され3連続四球とすると、ストライクゾーンを確認するしぐさも見せた。左肩の開きが早く、腕が振り遅れての抜け球。遅れを取り戻そうとしての引っかけ、逆球…。

「リリースポイントが安定しないと、そういうボールが出るのはその通りなので。リハビリから、どちらかと言うとカット(スライダー回転)が多かった」

昨オフから、投手コーチと肘への負荷を軽減するフォーム修正に取り組んできたが、腕の振り遅れが改善されるまでには至らなかった。1死も取れずに、マウンドを降りた。

無念の降板。中6日の登板間は、キャッチボールや壁当ての数を普段より増やし、打開策を練った。

「しっかり投げてからいかないと、なかなかエンジンがかかってこない。患部(手術をした右肘)もほぐれてこないという感覚があるので、ある程度、ウオーミングアップも多くなる」

約150球を投じる日も設け、2戦目のマウンドに臨んだ。

◆8月2日アストロズ戦 1回2/3無安打5四球2失点 球数50球

迎えた登板2戦目。初回は8球で3者凡退。打開策が奏功したかと思われた。が、続く2回は先頭からまたしても3者連続四球。制球が定まらない。6番レディックの6球目には、今季最速の97・1マイル(約156キロ)をマークしたが、球速は記憶に残らず、“投げ心地”の悪さだけが残った。

「(球速は)出てたとは聞いたんですけど、あんまり覚えていない。出ている感じはしなかった。試合全体として、あまり腕が振れなかったという印象の方が強かった」

肘の異変が追い打ちをかける。この回の7打者目、スプリンガーへの直球は89・1マイル(約143キロ)まで落ち込んだ。押し出し四球を与え、ここで降板。被安打0で2点を失った。

「やっぱり違和感があって降りたので、申し訳ないなという気持ちもありました。1試合目、2試合目、どっちも申し訳ないなという…。期待して使ってもらって応えられなかったというのもありました」

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登板後、映像で自身の投球を俯瞰(ふかん)すると、マウンドでの感覚と実際の動きは符合していた。

「全体的な投球モーション的に大胆さがない印象は、投げている時から受けていた。それは(映像で)見た感じも、その通りだった。違いは言葉にはしづらいですけど、しっくりきてないのはあるかなと思う」

自己分析は、ブランク期間を踏まえて続いた。

「メカニックも含めて忘れている部分は多々あると思う。フィジカルの部分もそうですけど。この2点がかみ合えば、投げ心地がよくて、最小の力でいいボールが投げられる。良くない時というのは力感を出して投げる傾向になるので、力を入れている割には球がいっていない。効率が悪くなってくる」

腕が振れず、フォームにダイナミックさがない。リリースポイントが定まらない。目指してきた低出力で直球が走る感覚が得られない。力を入れても球が走らない効率の悪さ。投げ心地の悪さの根源だった。

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メジャー挑戦前のように、周囲からは二刀流に懐疑的な目を向けられ始めたが、ミナシアン新GMからは、投打での貢献に期待をかけられた。右肘は順調に回復。キャッチボールの距離は120フィート(約37メートル)まで伸びた。

「(今は)カットする球が少ないし、低出力でいいボールがいくという感覚はある」

既に改善への道の最中にいる。投手として再復帰。大谷の心は決まっている。

◆1戦目30球 ストライク15球

引っかけ 7

抜け球  8

逆球   2

 

◆2戦目 50球 ストライク25球

引っかけ 8

抜け球  11

逆球   7

【投手大谷の今季】

18年10月に右肘内側側副靱帯(じんたい)の再建術(トミー・ジョン手術)を行い、約1年10カ月のリハビリを経て7月26日、敵地アスレチックス戦で投手として復帰した。1回に先頭のセミエンに中前打を浴び、3連続四球で押し出し。その後も連打を浴び1死もとれずに3安打5失点、わずか30球で降板となった。

2戦目の登板は8月2日のアストロズ戦。1回を8球でリズムよく終え、3者凡退。ところが、2回は先頭打者に四球を与えると、3連続四球から無死満塁。後続2者を連続三振に打ち取ったが、9番ガルノーに四球で押し出し。続く1番スプリンガーの打席では直球の球速が90マイル(約145キロ)前後に落ち、四球を与えて50球で交代となった。

試合後、右腕の屈筋回内筋群の損傷で4~6週間ノースローと診断された。以降は、打者に専念した。