エンゼルス大谷翔平投手(26)がブルージェイズ戦で3号ソロを放ち、メジャー通算50号に到達した。日本人では松井秀喜、イチローに次ぐ3人目。2005年(平17)4月の松井と8月のイチローの50号を復刻します。(以下の所属、年齢は当時のまま)

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球場に漂う、しらけたムードが、松井のひと振りで一変した。8点の大差をつけられて迎えた9回裏。通算で12打数1安打4三振を喫している速球派左腕ライアンが投じた、フルカウントからのド真ん中153キロ直球を、しんでとらえた。「もう完璧だったね。ウン」。会心の打球は高々と舞い上がり、バックスクリーン右の観客席中段に飛び込む。推定140メートルの特大アーチに、ヤンキースタジアムがこの日1番の大歓声に包まれた。

これがメジャー通算50本目のアーチ。過去2年間、周囲の状況に左右されることなく、常に相手投手との勝負だけに集中してきた。スタインブレナー・オーナーから「パワーがない」と言われても、ニューヨークのメディアから「ゴロキング」とさげすまされようと信念は曲げなかった。「どういう展開であろうと打席に入れば一緒。明日以降にいい形でつながっていけばいい」。焼け石に水。されど節目の1本には、松井らしさが凝縮されていた。

ヤ軍は投手陣がめった打ちにあい大敗。試合後の監督室の会見で疲れ切っていたトーリ監督の表情も、松井の話題になるとパッと明るくなった。「マツイは8点差で負けてたことを知らなかったようだな(笑い)。常に全力。彼を見ていると本当に楽しいよ」。4番打者への信頼は揺るぎない。

開幕から4戦で3発。今の状態なら、足かけ3年かけて到達した「50本」という数字を、今季1年間だけでクリアしても不思議ではない。さらに、この日は1発以外にも初回に右犠飛を放つなど2打点をマーク。3本塁打はトップタイ、7打点は単独トップと早くもリーグ2冠だ。

スタンドの一部ファンからは、松井が打席に入る際に「MVPコール」が聞こえてくるようになった。リーグ年間最優秀選手に選ばれる可能性のある、チームで最も頼りになる選手に送られる声援で、昨季はシェフィールドが受けていた。松井は「まだ4試合だよ。何て言っていいか分からないなあ…」と照れくさそうに頭をかいた。50発にMVP。確かに気が早いかもしれないが、今年の松井を見ていると無限の可能性を感じずにはいられない。

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試合開始時刻の気温が35度というナイター翌日のデーゲーム。容赦なく照りつける直射日光のためか、イチローのバットから4打席まで快音は響かなかった。しかし、2試合連続の無安打の脱力感を残したまま本拠地シアトルに戻るわけにはいかない。

9回1死、代打のストロングが遊撃内野安打でリードを3点に広げ、なおも満塁の好機に回った第5打席。球場の電光掲示板にはカ氏で100度(セ氏37・8度)が表示された。だが、イチローの集中力は一気に高まった。0-1からの2球目。レ軍3番手トンプソンが投じた内角ひざ元117キロのカーブを、体を開くことなく、完ぺきなタイミングでとらえると、鋭角に上がった打球は一直線に右翼席に突き刺さった。

イチロー 僕の今日の(打撃)内容からいけば、本当につまんない日になるか、そうじゃなくなるのかという、そういう打席でしたからね。思い切り狙った。もう120%ね。

もやもやを吹き飛ばした一撃は、節目のメジャー通算50号で自己最多に並ぶ13号。さらにメジャー3度目のグランドスラムというおまけも付けた。さらに、ひと振りで、イチローのイチローたるゆえんも見せつけた。4打席の凡退の時点で、打率は7月1日以来3割を切る2割9分9厘へと下降した。

イチロー ごく平凡な選手になるか、そこからもうひとつ上になるかの壁だろうね、(3割という)数字で言うと。でも、打率じゃなくてヒットの数だね、僕にとっては。

打席に立たないことで数字の操作が可能になる打率に、イチローはそれほど価値を見いだしてはいないが、わずか1厘に横たわる一流への分水嶺(れい)がどれだけのものかを知るからこその言葉だ。移動日なしで、ホワイトソックス、ヤンキースとシアトルで闘う。チームは最下位に沈むが、イチローの戦いは変わらない。