エンゼルス大谷翔平投手(28)が、アスレチックス戦で8回2死まで無安打投球を続ける力投で今季15勝目を挙げた。技術の高さはもちろんだが、打者を1人1人、テーマを持って打ち取っていく精神面の強さも光った。マウンド上での思考やイニング間のしぐさ、表情から読み取るメンタリティーについて、スポーツ心理学者の布施努氏(59)を取材。3つのポイントが浮かび上がった。

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この日の大谷選手の投球を拝見し、大きく3点、感じることがありました。

(1)8回終了後の表情 珍しく「ちょっと疲れた」といった感じでした。今日のような展開で、ピッチャーは結果にフォーカスしているのではなく、1球1球に集中しています。だから、ノーヒットが途切れ、結果にいったん意識が向いた後で、また1球1球に意識を向けるというのは相当難しかったはずです。ゴールが見えなければ「最後まで、最後まで」と頭は頑張っている状態。9回まで投げてはいませんが、結果、つまりノーヒットノーランを出来なかったことが、どうしてもゴールになってしまう。そうなると脳疲労が一気にきて、しんどかったと思います。無安打を続け、1本打たれて交代というケースが多いのもそのためです。しかし、大谷選手はやらなくてはいけないことを明確にしていけるのではないでしょうか。打たれた後に、もう1死をとった。そこにすごみがあります。

(2)冷静なガッツポーズ エネルギッシュなイメージがありますが、そうではありませんでした。いつもは、例えば「ヨッシャー、これで逆転するぞ!」とか、チームメートにも好影響を与えるように、チームが軸の感じです。ただ、今日は自分の中での“実験”がうまくいって、究極を目指してやってきたことが、ある程度出来ていたのだと思います。どこか淡々としていたような感じで、おそらく、自分の中で投げたいボール、思った通りに曲がって三振がとれたとか、個人の軸の中でのガッツポーズだったのだと思います。

(3)首振り後の球種 テーマ、いわゆる“実験”が、スライダーだったのではないでしょうか。捕手のサインに首を振った後の球種はほぼ、スライダーでした。調子がよくない時は、不安になっていろいろ考えてしまうもの。そうなると脳が刺激されて、判断力が悪くなったりします。考えることが多ければ多いほど、本当にやるべきことが分からなくなりやすいです。大谷選手は、シンプルに今日のテーマをスライダーに絞ったのだと思われます。

チームはリーグ優勝もプレーオフ進出も消滅しています。もちろん、そこを目指してきたとは思いますが、大谷選手がパフォーマンスを継続できるのは、究極の自分の投球というところ、個人軸の目標がしっかり明確にあるからでしょう。

◆布施努(ふせ・つとむ)スポーツ心理学博士。1963年(昭38)東京都生まれ。大手商社を退職後、38歳で渡米し、ノースカロライナ大グリーンズボロ校大学院にて博士号取得。現在は応用スポーツ心理学の第一人者として、慶応大講師、慶応大スポーツ医学研究センター研究員を務める。これまでにプロ野球、Jリーグ、社会人、大学、高校のラグビーチームや選手を中心にメンタル指導。最近では北京五輪で銀メダルを獲得したカーリング女子「ロコ・ソラーレ」の吉田夕梨花らを指導した。