ヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手(30)が4日(日本時間5日)、ア・リーグのシーズン記録を61年ぶりに更新する62号本塁打を放った。敵地テキサスでのレンジャーズ戦の1回、先頭打者としてカウント1-1から真ん中のスライダーを左翼席へ運んだ。並んでいた1961年ロジャー・マリス(ヤンキース)の記録を抜いた。バイデン大統領がコメントを出すなど、米国中から祝福された。

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「オール・ライズ(全員起立)」。裁判の開廷にちなんだニックネームさながら、敵地の観客をも総立ちにした。半世紀以上、止まっていた時計をジャッジが動かした。1回、右腕ティノコの投じた142キロの真ん中スライダーを左翼席最前列へ運んだ。6試合ぶり、391フィート(約119メートル)の1発は、ア・リーグ新記録の62号となった。

ネット裏から母パティさんが見つめ、チームメート全員が、本塁付近で待ち構える中でホームイン。「本当にホッとした。これで、みんな席に座って試合を見られるね。ここまで楽しかった。ロジャー・マリスやベーブ・ルースといった偉大な選手と名を連ねるなんて信じられないよ」。安堵(あんど)の表情を浮かべた。

61号を打ってから、5試合足踏みした。日に日に増す重圧。ダブルヘッダー第1試合を終え、残りは2試合。敵地グローブライフフィールドは、レ軍がリーグ4位にもかかわらず、有料観客3万8832人は球団史上最多。今季3度目の満員札止めだった。全米の注目を証明するかのように、現職のバイデン大統領が「歴史がつくられ、さらなる歴史がつくられる」とツイッターに投稿した。

エンゼルス大谷と一騎打ちとなっているMVP論争は、さらに熱を帯びる。打率は首位アラエス(ツインズ)と4厘差となり、3冠王こそ厳しくなったが、本塁打は23本差、打点は7点差と独走状態。本塁打上位のボンズやマグワイアと違い、筋肉増強作用のあるステロイドと無縁のクリーンスラッガーには「真の本塁打記録更新」という見方も多い。全米で30人の野球記者による投票は、7日(日本時間8日)ワイルドカードゲームの試合前に締め切られる。ジャッジに対する“判決”はいかに。

ジャッジの今季主な記録

◆99&62 背番号99のジャッジが62号を打った試合で、ヤンキースの勝敗は99勝62敗となった。

◆2位に大差 本塁打数でMLB2位のシュワバー(フィリーズ)の46本に16本差。16本差は、1932年ジミー・フォックスが2位ベーブ・ルースに17本差をつけて以来の大差。

◆中堅手最多 出場試合の50%以上で中堅を守った選手では、ジャッジの62本(右翼守備時も含む)が最多。2位はケン・グリフィー・ジュニアとハック・ウィルソンの56本。

◆最長飛距離 62本の通算飛距離は2万5520フィート(約7.8キロ)。計測開始の15年以降、17年スタントン(マーリンズ=59本)の2万4641フィート(約7.5キロ)を超えた。

◆複数60号 60号以上は6人目。同一球団から複数選手の達成はヤ軍だけ(他にマリス、ルース)。

◆アーロン・ジャッジ(Aaron Judge)1992年4月26日、米カリフォルニア州生まれ。リンデン高からカリフォルニア州立大フレズノ校をへて、13年ドラフト1巡目(全体32位)でヤンキース入団。16年メジャー昇格。17年に新人記録を更新する52本で本塁打王、新人王獲得。球宴出場4度。201センチ、127キロ。右投げ右打ち。「ジャッジ」は「裁判官、裁く」の意味。今季推定年俸1900万ドル(約27億6000万円)。今オフにフリーエージェントとなる。

○…62号のホームランボールを捕球したのは、ダラスから来た金融関係の仕事をしている男性のコリー・ユーマンズさんだった。レンジャーズの帽子をかぶり、地元テレビ局に「ボールをどうする?」と問われると、「いい質問だ。まだ考えてない」と答えた。この様子がツイッターに投稿されると、NFLカウボーイズとNBAマーベリックスのリポーターを務めるブリ・アマランサスさんは「これは私の夫」とリツイートした。アマランサスさんは人気恋愛バラエティー番組「バチェラー」の卒業生。ジャッジは「戻ってくれば素晴らしいが、記念品はファンのもの。彼が素晴らしい捕球をしたのだから、持っている権利がある」と話した。

▽マリスの息子マリスジュニア氏(ツイッターに投稿)「歴史的な62号を打ったジャッジとご家族を祝福する。ジャッジは新たなクリーン本塁打王だ。子供たちはついに尊敬すべき人を見つけた。もう73本を打つ方法を説明しなくて済む」