<パイレーツ1-3カブス>◇1日(日本時間2日)◇PNCパーク

 米大リーグが本格的に開幕し、阪神からカブスに移籍した藤川球児投手(32)が大リーグ初登板で初セーブを挙げた。3点リードの9回に抑えのマーマルが1失点し、2死一、二塁で登板。日本では本格的に用いていなかったカットボールとツーシームのわずか2球で打ち取った。「米国流」で勝負する球児が幸先のいいスタートを切った。

 中堅へと舞い上がったパ軍マーティンの力ない打球を見届けた球児は拳を下から突き上げた。憧れだったメジャーの大舞台は不意に訪れた。9回、抑えのマーマルが制球難を露呈するとブルペンで急いで準備を開始。2点差に詰め寄られた2死一、二塁で初マウンドへ。わずか2球で中飛に打ち取った。

 藤川

 2球しか投げてないですから。あんなセーブ、初めて。まだ正直、デビューしたぞという感じではないですね。ケガなくやれてきたし、今日だけ、ご褒美をもらったと思ってまた頑張りたい。

 自らも拍子抜けした、2球の全米初セーブ。1球目は外寄りカットボールでストライク。2球目に正捕手カスティーヨの構えるミットは内角へ。内寄りツーシームで中飛に抑えた。220セーブを挙げた阪神時代の代名詞「火の玉ストレート」を1球も投げない。過去の栄光に固執せず、球を動かす「米国流」で勝負する意図を貫いた。「日本で投げてなかった2球だった。それだけ、違う野球をするということ。自分の持っているものは日本のスタイルなので、それでは恐らくダメだと認識していた」と胸を張った。

 試合直後、ロッカー室で携帯電話を見ると祝福メールが届いていた。「うれしいです。家族も喜んでいました。実家の父(昭一さん)でした」と笑う。幼い頃、野球の手ほどきを受けた父は高知の実家でテレビ観戦した。故郷の温かさが、心を癒やす。昨年、カブスへのFA移籍が決まり、年の暮れには高知に帰省した。足を運んだ先は母校・城北中の近くにある居酒屋だった。忘年会で中学野球部の同期生、恩師の上田修身教諭らが集結。サプライズで登場し、昔話に花を咲かせて「ホッとする。素に戻れるわ」と心を和ませた。そんな藤川が中学生に向けたメッセージを撮影したDVDは、高知市内の中学校で、道徳の教材に用いられている。

 人生の「原点」でパワーを得て米国に渡った。先発サマージャから勝利球を譲られ「日本のウイニングボールは1球もないんですけど、こっちは特別です。僕の中ではね」。たった2球で、日本人投手では史上初のメジャー初登板初セーブを手にした。【酒井俊作】

 ▼カブス藤川が大リーグ初登板で初セーブ。日本人投手は通算36人目になるが、デビュー戦でセーブを挙げたのは初めてだ。過去の最速セーブは00年佐々木(マリナーズ)のデビュー2試合目。開幕戦のセーブは佐々木が01年、高津(ホワイトソックス)が05年にそれぞれ渡米2年目で記録して以来3度目。投球2球のセーブは佐々木が01年、長谷川(マリナーズ)が03年、上原(オリオールズ)が10年にマークした1球に次ぐ少なさ。藤川の阪神時代の最少投球数セーブは10年7月17日ヤクルト戦の3球だった。

 ▼藤川は日本で通算220セーブ。今季30セーブなら、日本プロ野球名球会の資格にもなる日米通算250セーブに届く。