<ヤンキース6-5オリオールズ>◇25日(日本時間26日)◇ヤンキースタジアム

 今季限りで現役を引退するヤンキースのデレク・ジーター遊撃手(40)が、本拠地ヤンキースタジアムで最後の試合を、劇的なサヨナラ安打で締めくくった。5-5の同点で迎えた9回1死二塁から右前打を放ち、ピンストライプのユニホームに別れを告げた。公式戦最後となる26日(同27日)からの敵地ボストン3連戦では、遊撃の守りには就かず、DHで出場する。

 デビュー以来、常にポーカーフェースを保ってきたジーターも、さすがに感情を抑えられなかった。5-5と追いつかれた直後の9回1死二塁。4万8613人の大観衆が総立ちで「ジーター・コール」を叫ぶ中、自分自身に「泣くな」と言い聞かせていた。

 ただ、野球選手としての並外れた感性は、勝敗の機微を見失っていなかった。初球。時速138キロの外角スライダーを、ためらうことなく振り抜いた。打球が一、二塁間を抜け、二塁走者が生還すると、ジーターは大ジャンプ。「どんなプレーをしたか覚えていないんだ」。ダッグアウトは一瞬で空っぽになり、優勝したかのような輪ができた。

 試合開始直後から、異様な雰囲気だった。イニングの合間には、スクリーンで往年の名選手や他球団選手からのメッセージや名シーンが映し出された。守備に就いただけでコールがわき起こり、打席に立つたびに観客席では一斉にフラッシュが光った。「今まで気持ちをうまくコントロールしてきたつもりだが、今日はできなかった。ほとんど泣きそうだったし、崩れそうだった」。試合中に数回、ベンチ裏のトイレへ行き、呼吸を整えるほど、込み上げる感情を制御することに必死だった。

 試合後、フランク・シナトラの名曲「マイ・ウェイ」が流れる中、スタンドへあいさつをしながら向かった先は、遊撃の定位置だった。しゃがみ込み、目をつぶり、胸の前で十字を切った。ヤ軍の遊撃手ひと筋。最後のボストン3連戦は、遊撃の守備には就かない。「5~6歳からの夢だった。その夢が終わるということ。だから最後に行ったんだ」。球場に充満していたサヨナラ打の興奮が、いつしか感傷的な空気に変わっていた。【ニューヨーク=四竈衛、水次祥子】