カイマクという名の魔物が潜んでいた。開幕戦で中日は8回にセットアッパー又吉克樹投手(24)が3点差を追いつかれ、阪神に延長10回にサヨナラ負け。先発山井が好投、4本の適時打が飛び出す理想の展開で進んだが、踏ん張りきれなかった。勝ちパターンからの逆転負け。それでも谷繁元信兼任監督(44)は一切選手を責めず、逆襲への意欲を強調した。

 ベンチ裏には用具を片付ける音だけがカチャカチャと響く。しかし谷繁兼任監督は悠然と、前をまっすぐ見据えて現れた。

 「勝ちパターンで進めたけど、これが開幕戦。最後までどっちに流れがいくか分からなかった」

 信じられない。4-1の8回で中日自慢の必勝リレーに入った。不動のセットアッパー又吉は、簡単に2死をとる。3人目の鳥谷に中前打されて、流れが変わった。右腕は鳴り続ける阪神のチャンステーマに、のみ込まれていく。最後、ゴメスには2死一、三塁から高めに大きく外した球を、強引に右翼線に落とされた。

 カウント0-2からの失点だ。又吉は「外すところだった。違う方法があったかもしれない。ゴメスのパワーも考えないといけなかった」と振り返った。

 延長10回の田島は2死三塁、フルカウントからマートンに甘く入ったスライダーをサヨナラ打された。塁は2つ空いていた。「低めのボール球を振らそうと思った」と説明したが、真ん中に浮いて痛打された。

 悔いは残る。だが、どちらのシーンにも意図は明確にあった。谷繁兼任監督はバッテリーの選択を責めようとしなかった。同点打は「自分で抑えにいった。逃げずに攻め込んでいたから」と擁護し、サヨナラの場面には「あそこは勝負だった」と説明した。

 監督は昨年まで21年連続、通算23度かぶってきた開幕マスクを松井雅に譲った。今年先発なら野村克也、張本勲を抜くダブル新記録だったが、監督としての現実的な起用をした。

 同点後、浅尾、田島とつないだ。どんなピンチを招いても抑えの福谷はリードするまで取っておく。先攻チームのセオリーであり、中日が長年続けてきた形だ。今回は又吉が打たれたが、攻撃面を含めて「かく戦う」の形は示した。

 開幕前日。ナインに「闘争心を持て」とハッパをかけた。痛い1敗だが、「これからも同じような場面はある。この負けを、いい材料にしていかないといけない」。力強い言葉を残して、バスに乗り込んだ。【柏原誠】

 ▼中日が開幕戦でサヨナラ負けしたのは、11年横浜戦で内藤にサヨナラ打され4-5で敗れて以来5度目。また開幕戦が延長にもつれこんだのは、昨年の広島戦(ナゴヤドーム)に延長10回2-3で敗れて以来、2年連続9度目(いずれも2リーグ分立後)。