連載のきっかけは、巨人キャンプの練習メニュー表に記載された“シンコ”だった。他球団のスカウトに質問されたが、私自身も初めて聞いたフレーズ。内容を確かめるために、斎藤投手コーチを直撃した。「けん制の種類のことだよ。意味? 昔からそのけん制はシンコって言ってたから、それは聞いたことないね」と話した。

 「へぇ~、なるほど」で終わらなかった。隣にいた豊田コーチが「巨人特有の呼び名じゃないかな? 西武では聞いたことがなかったよ」と教えてくれた。そして、昨年11月に投手コーチとして同行した侍21Uで「練習中、平田監督(現阪神ヘッドコーチ)から、“ブルけん”と言われて、何ですか? と聞いたんだよね」と言った。

 田畑コーチも、その輪に加わった。「ヤクルトでは“ぱったん”って呼んでたね。球団や地域によって、違うんだよね」と説明してくれた。同じ野球界なのに、“方言”がある。「野球界の用語の辞書を作ってみようか」。関係者への取材を通じて、言葉を掘り起こし、意味や語源、使い方を書き記した。

 「“ハチマキ”って、知ってる?」。未知なる言葉との遭遇の連続だった。「“エバース”の由来? そんなん知らんよ」と素っ気なかった選手も、その意味を知って、納得顔だった。これが完成形ではなく、また新たな言葉に出会う時が来るだろう。その時はまた、改訂版の製作に取り掛かる。【久保賢吾】