プレーバック日刊スポーツ! 過去の11月30日付紙面を振り返ります。1991年の1面は、契約金1億3000万円が提示されたダイエー(現ソフトバンク)1位指名の駒大・若田部健一投手でした。

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 史上最高額の契約金と年俸が29日、ダイエー1位指名の駒大・若田部健一投手(22)に初交渉で提示された。1989年(平元)の近鉄野茂を1000万円上回る1億3000万円の好条件。年俸でも野茂を200万円しのぐ1200万円と、文字通りゴールデンルーキーの輝きを見せた。この日の交渉は駒大の先輩、中畑清さんが経営する東京・新宿の焼き肉レストラン「童里夢」で、高木、岩下両スカウト、若田部側からは本人、両親、駒大・太田監督が出席して行われ、破格の条件提示に一気に内定、12月2日に仮契約と決まった。

喜びよりもむしろ、責任感をヒシヒシと感じた様子が伝わってくる。店内で行われた会見で、若田部は太い唇を真一文字にして言った。「(金額に)納得というより、よろしくお願いします、ということです」。

あの近鉄野茂を追い抜き、球界史上最高額の契約金1億3000万円、年俸1200万円という二重の破格の待遇に、自らへかかる期待の大きさを痛切にかみしめた。「(金額の)基準というものがわからないので、驚いていいのか、複雑な気持ちです。でも、野茂さんより上というのは自分でも大満足しています」と、若田部はキッパリ答えた。

前夜(28日)、球団の納会の席上で中内オーナーが、「あれだけの選手だし、本人も世間も納得する数字を出さんといかん。史上最高額になるでしょう」と公言。すでに“お墨付き”も出ていた。初回交渉でのビッグ提示に「そこまで(金額提示まで)行くとは思わなかった」と、恩師の駒大・太田監督が苦笑いをつくるほど。

交渉に当たった高木スカウトは具体的な金額こそ明かさなかったが、自信に満ちた表情で「野茂君より上だと思っていてください」と話した。

入団が内定したスーパールーキーにVIP待遇は金銭面ばかりではない。一時は中止決定していた主力投手陣のハワイキャンプを断行。若田部をいきなり帯同させ、弱投陣のカンフル剤にしようというのだ。「どうしても、うちは投手強化が目標。即戦力(若田部)が入ってくることでチームの活性化になるし、競争心が生まれてくるから」と、田淵監督は若田部効果を期待する。

「プレッシャーみたいなものはあるけど(内定したことで)気持ちがスッキリしました。これからのヤル気が出て来ましたよ。(ハワイキャンプは)僕も行きたいです」。また、田淵監督から開幕投手候補(新人では84年のヤクルト高野以来)に挙げられているだけに「これからは来年、活躍できるように練習します」と、若田部も意欲を見せた。

気になる契約金の使い道については「まだ決めていません。手元に入ってから決めますけど、まあ貯金したいです」と意外? に堅実なところもチラリ。

仮契約は来月2日に駒大野球部合宿所で行われるが、その席には田淵監督も駆け付けることになっている。若田部がダイエーのユニホームにそでを通す日が、もうすぐそこまでやって来た。

※記録と表記は当時のもの