中日京田陽太内野手(23)はスピード侍だ。今季1年目から開幕スタメンをつかむと、主に1番遊撃で141試合に出場。セ・リーグの新人としては歴代2位の年間149安打も破格だが、チームの得点力になった攻撃的な走塁が印象的だった。その「スピード」は局面打開の大きな武器になるはずだ。

 ダイヤモンドを俯瞰(ふかん)すると分かる。京田の視線はいつも、見る者の想定の1つ先にある。単打ではなく二塁打に。外野の間に打球が飛べば三塁を。観衆のみならず、守備陣の虚を突く積極走塁が真骨頂。セ・リーグ最多の8本の三塁打がその証しだ。「常に先の塁を狙っている」。聞き慣れたせりふも京田が言えばふに落ちる。

 驚きのランニング本塁打“未遂”があった。5月24日のDeNA戦。右中間を抜くライナー。広くない横浜スタジアムだけに二塁打コースか、三塁を狙えるか。だが京田は二塁手石川がカットした時にはすでに三塁を回り、ステップを踏んで様子を見ていた。

 石川がすぐに投げてこないとみるや、再加速。本塁を陥れた。記録は三塁打と送球間の進塁になったが、実質のランニング本塁打。足も速いが、判断の速さと再加速の瞬発力が際立っていた。このシーンを「年に1回あるかないかのプレー。自分の判断です」と回想。「走らないと僕が何のためにいるのか分からない。勇気が一番」というシーズン中の言葉にも走塁への高い意識が表れる。

 下地には、チームの誰もが舌を巻く下半身の強さがある。青森山田時代に雪を踏みしめて日々走った体験があり「今思えばあれが生きている」。休養日も練習に出て、全試合前にコーチの指導で走塁練習に励んだ。頭も体もパンク寸前で1年間完走できたのは、研究、反省、実践を続ける気力・体力があるからだ。

 盗塁はリーグ2位タイの23。文句なしの成績だが、心のライバルはパ・リーグ新人王候補の西武源田だった。安打、三塁打、盗塁の数などで劣り、全試合フルイニング出場まで果たした源田に「完敗です」と悔しがる。セ・リーグ新人王有力候補といわれても、とても満足できない。侍ジャパンには源田もいる。モチベーションは高い。そのスピード感ある走りで、日本の攻撃を加速させていくはずだ。【柏原誠】