生え抜き中心の強いチームを作ってきた王者の秘密を探るべく「阪神目線」から、セ・リーグ連覇した広島の日南キャンプと日本一に輝いたソフトバンクの宮崎キャンプに潜入しました。第4回は日本一軍団、ソフトバンクの強さに迫ります。豊富な資金力を生かして「3軍制」が充実。球界トップの育成力を誇ります。そこでは一貫した指導と、選手に目線を高く保たせるシステムが確立されていました。能ある鷹の育て方をクローズアップします。

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 企画担当デスクに毒づいて悪かった。「広島キャンプを見たら、今度はソフトバンクも潜入せよ」との指令だ。ちょっと待ってください…。そのとき、日本一になった直後で1軍はいない。「2、3軍のキャンプ見て、強さが分かりますか?」。宮崎市内の生目の杜へ向かったが、まるでスケールが違う。浅はかな発言を撤回する。世界に名だたる経営者、孫正義が唱える「めざせ世界一!」に本気な常勝軍団の熱があった。

 目線を変えれば人生は変わる。これが3軍制を敷くホークスの真髄だ。今秋の日本シリーズは育成出身の選手が何人も活躍した。その背中を追い、野手21人、投手16人の大所帯が歯を食いしばる。背番号3桁も交じっていた。潤沢な資金を生かして、今季終了時の選手数91人はパ・リーグ最多だ。敷地も広大で、1軍から3軍まで一堂に会する。ソフト面もハード面も他球団を圧倒し、勝って当然だと思われがちだが、洗練された育成システムこそが強さの秘密だと思い至った。

 公式戦は2、3軍に分かれるのに、なぜキャンプは合同なのか。やがて1軍も合流する。今季まで2軍監督だった水上善雄1軍内野守備走塁コーチに聞いた。

 <1>一貫した指導観

 水上 1人の選手に対して1、2、3軍の3人のコーチが見ることができるのは大きい。各軍のコーチが指導に関して共有できる。

 <2>高く保てる目線

 水上 1軍選手のプレーを間近で見られる。2軍選手はこうやって打つ、こうやって守る取り組みをしないと1軍で通用しない、と気づける環境があります。

 この集団から、また主力が生まれた。今季、主戦捕手に成長した甲斐拓也は育成出身初のベストナインに選出された。出場数も昨季13試合から今季103試合に激増。大出世である。

 水上 去年の秋季キャンプで意識が変わりました。個別練習が終わって、コーチがいなくても、ずっとキャッチングや打撃の練習をしていた。いつまで残っているのかと思うくらい…。

 今季、盗塁阻止率はリーグ3位の3割2分4厘だが鉄砲肩で走者を塁上にくぎ付けにする。育成1年目から肩の強さは光っていた。課題はキャッチング。当時から指導する的山哲也2軍バッテリーコーチは言う。「2軍の時もマシンを捕ったりさせた」。捕球の重要性も口酸っぱく伝えた。

 「うまく捕れれば(1試合で)ボール球を5球くらい、ストライクにできる。ヘタなら5球、ストライクがボールになる。上下で10球も違ってくるんや」

 昨オフ、ベテラン細川がチームを去り、目の色を変えた。的山は甲斐を「我慢して取り組んできた成果」と評する。3軍から2軍、そして1軍へ。彼の台頭は3軍制の結実そのものだ。

 水上 2軍は、1軍のハイレベルな戦力に当てはめるピースを作ること。1軍と同じ戦い方をしないといけない。その能力に達していなければ、3軍で振り込んで鍛えればいいし、ここが育成です。1軍で要求されるから、2軍でやっておくのが当たり前なんです。

 阪神の3軍制が現実的にならないなか、ホークスの2軍は「1軍予備軍」の位置づけで戦い、3軍を「他球団の2軍」扱いで鍛えている。昨季までウエスタン・リーグ5連覇は、分厚い育成システムの結晶だ。タカの2軍で技量を磨いた甲斐の目線も、おのずと高くなる。豊富な軍資金と層の厚い陣容、確立された育成ノウハウ…。ため息をつきながら、阪神がキャンプを行っている安芸に戻った。(敬称略)

 

○…3月のWBCでも存在感を示し、今季、自己最多の13勝を挙げた千賀も甲斐と同じ10年に育成4位で入団した。当時を知る小川一夫2軍監督は「千賀も甲斐もスカウティングと育成力で育てたということ。千賀は1年目の2、3軍戦でブルペンでのウオーミングアップの5球を見て、これは2軍の打者では打てないと思った。甲斐は高校(楊志館)時代に夏の大会後に見にいったが、すごい送球をしていた。他球団がどこも来ていなかったから、これは育成でも獲得できると思ってとった」と振り返る。調査力、眼力、育成力がチーム力につながっている。