阪神筒井壮2軍守備走塁コーチ(43)は昨年末、星野氏に呼ばれ、兵庫・芦屋市の自宅を訪ねた。星野氏の姉の息子で、「叔父」と「おい」の関係になる。本人から病気の話は聞いたことはないが、両親から、うすうす知らされていた。そんな中、2人きりで約3時間、話し込んだという。それは野球界への「遺言」ともいえる内容だった。

 「野球を身近なものに変えようや…。ちょっと野球というスポーツが特別なものになり過ぎている。このままでは衰退していく」

 かつては空き地で多くの子供たちが野球に夢中になっていた。狭い場所や少人数では「三角ベース」という遊びもあった。それが今では、キャッチボールやバットの使用を禁止する公園が増えた。野球を始めても、親の負担は大きい。「少年野球をやる中でも、親がついていかないといけない、とか、それは違うんじゃないか」と星野氏は疑問を投げ掛けたという。

 スポーツと触れ合う、いわば「入り口」に当たる園児や小学生が野球を選択しづらい状況になった。「とにかくもっと身近にな」と力を込めた。話し終えた後、筒井コーチは家族から感謝された。「ありがとうね。あれだけ話をして、もしかしたら、体がきつかったかもしれないが、それを忘れさせるぐらい楽しい時間だったと思う」。3時間の対話では、笑いながら自らの現役時代を懐かしむ場面もあった。そして野球界の将来を案じた。死の直前まで、人生をささげた野球と向き合っていた。

 星野氏は生前、有形無形の財産を数え切れないほど残した。筒井コーチは言う。「大きなことは言えないが、少しでも遺志を引き継いで、自分のことだけじゃなく、周りの人々をどうやって幸せにしていけるか。この野球界を発展させるために尽力していきたい。叔父は恩返しの精神がすごい方なので、しっかり引き継いで、やっていくしかないと思う」。そのDNAを受け継いだ人々が、今後の野球界を支えていく。【田口真一郎】(おわり)