侍ジャパンの女子日本代表・木戸克彦ヘッドコーチ(57=阪神球団本部部長)が、マドンナたちと世界一を目指して奮闘している。女子野球ワールドカップ(W杯)の6連覇実現を目指し、昨年10月に就任。かつての鬼軍曹が年の離れた女子選手たちをいかに指導しているのか? 15日に打ち上げた高知での強化合宿に密着し、動向を追った。

 木戸ヘッドコーチは阪神指導者時代とは違う顔を見せていた。今回の強化合宿で、こんなやりとりがあったという。選手との会話の中で「マジ卍(まんじ)!」と返し、「なんで、そんな言葉を知っているんですか?」と笑わせた。最年少の日本代表候補とは40歳の年の差があった。若者のはやり言葉を事前に調べ、選手との距離を縮めた。「(指導も)前向きに表現してあげないとね。野球は楽しいよ、と。技術が足らない選手もいるが、こういうことをやれば、もっと試合で楽になると」。かつての鬼軍曹は、父親のようなまなざしで指導している。

 女子日本代表は世界ランキング1位。8月のW杯では大会6連覇がかかる。初の女性指揮官として橘田恵監督(35)が就任。そのサポート役として、白羽の矢が立った。「高校、大学でジャパンのユニホームを着た。何かの縁だと思った。野球に対する恩返しの気持ちで引き受けた」。78年夏に主将として、PL学園を全国制覇に導いた。40年がたち、母校の野球部は活動を休止。そこで出会った女子野球の取り組む姿勢に感銘を受けた。「ひたむきさは大きなインパクトだった。何とかしてあげたいと思った」。強化合宿ではグラウンドで技術指導を行い、夜にはミーティングで準備の大切さを説いた。

 表現は優しいが、野球人生で培った厳しさも妥協なく注入している。起伏の激しい高知・安芸市営球場で緩い坂道を通ってメイン球場に戻ろうとする選手に言った。「そっちから、行くかなあ。階段を上ろう」。心がけひとつで、自分を高められる。そんなメッセージを込めた。「真剣に取り組んでいる選手には、真剣に応えてあげないと」。

 高校、大学、阪神で日本一を経験。球団業務の合間を縫って、女子選手たちと大きな目標に突き進む。「日本一には何度もなったが、世界一になりたい。そう思う。協力していただき、会社にも感謝しています」。世界一の目標とともに、大きな夢もある。「選手たちが指導者や母親になり、子どもたちとキャッチボールやノックをする。男子の野球にも絶対にプラスになる」。PL学園の歓喜から40年後、米国フロリダで暑い夏を迎える。【取材・構成=田口真一郎】

 ◆女子野球W杯 第8回女子野球W杯は米国フロリダ州ビエラで、8月22日から31日まで開催される。出場は12カ国。2グループに分かれ、予選ラウンドを行い、上位3チームがスーパーラウンドに進む。その上位2チームで世界一決定戦に臨む。世界ランキング1位の日本、開催国の米国、カナダ、オーストラリアが世界4強と言われ、うち3チームがBグループに同居。6連覇を狙う日本は「死の組」を勝ち抜く必要がある。試合は7イニング+タイブレーク制で行われる。

 ◆マジ卍 女子中高生がよく使う言葉なんだって。「ヤバイ」とか「信じられない」という意味みたいだよ。