沈黙の甲子園を、踏み込んだ一振りで燃え上がらせた。バチンとしばいた白球が、右翼席に飛び込む。振り切った阪神糸原もピョンと跳ね上がって走りだした。

 「いい感じで打てました。後ろにつないで、プレッシャーを与えることができた」

 5点を追う8回2死一塁。ジャクソンが投じた、内角低め140キロのスライダーをしばき返した。今季1号2ランは得点力不足に悩む猛虎打線に力を吹き込むアーチ。7回まで無得点に抑えられていた首位広島に一矢報いた。

 力強いスイングで打球が伸びた理由は「日課」にある。筋力トレーニングを行った直後や試合前、トレーナーに腰付近に太めのチューブを巻き付け、グッと引っ張ってもらう。左足に体重を乗せて右方向に強いステップを繰り返す。球団トレーナーは「野球は縦の筋力よりも、横の動きが多いので(筋力の)変換を。打席での踏み込みが強くなるように。ストレッチも兼ねているのでケガ予防にもなる」と説明。踏み込む足を確認すると同時に、鍛えた筋力を「飛距離」に変えていた。細かなトレーニングにも励んできたから生まれた1号だった。

 金本監督は「センターから逆方向のヒットが多かったけど、強い打球を引っ張れるのが彼の良さ。だいぶ糸原らしさが出てきた」と評価。最後まで粘りを見せた打線に「上向いてくると信じています」と期した。試合に敗れ、引き分けを挟んで3連敗。今季最多の借金4。6位中日とは0・5ゲーム差…。リーグ戦再開でいきなり厳しい状況が進んでしまったが、逆襲に欠かせない意地はみせた。【真柴健】