延長回に打線が目覚めた。ヤクルトが広島2回戦(マツダスタジアム)の10回、中村悠平捕手(28)の中前打を皮切りに打者16人、8安打に2四死球と敵失を絡め一挙12得点。空席が目立ち始めた球場に東京音頭が鳴りやまなかった。

延長回の1イニング12得点は、96年阪神の11点を更新するプロ野球新記録。小川淳司監督(61)の掲げる「執念」で歴史をつくった。これで巨人に並び今季初の首位タイ。3カード連続勝ち越しで、貯金3とした。

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打って、走って、また打った。延長10回だけでヤクルトは打者16人、敵失も絡み30分以上攻め続けた。歴史的な「12」をスコアボードに刻んだ。小川監督は「すごい。点が入る時は入るものですね。向こうのミスに乗じて、つながりのある攻撃だった」と笑顔で振り返った。

3-3の10回、先頭の中村がこの日3安打目となる中前打で口火を切った。1死満塁、山田哲が広島の守護神中崎の2球目直球に反応し、強い打球は広島二塁手菊池涼のファンブルを誘った。三塁走者の荒木が土煙を上げながら生還し、1点を勝ち越した。

バレンティンも続き、中崎をKOした。ベンチからの「行ける!行ける!」の声に乗るように、1死満塁で雄平が広島6番手中田から中前打を放ち追加点。「広島は強いし、今日は負けちゃうかなと思ったけど、粘っこく、根負けしないようにと思っていた」と話した。猛打賞の雄平に、青木は帰りのバスに乗る際「今日は雄平に尽きるでしょ」と肩を強く抱いた。

シーズン開幕の前日3月28日、全員ミーティングで小川監督は静かに訴えかけた。「120%の準備をして、執念を持って戦ってほしい」。プロ野球選手として、100%の準備を怠らないことは当たり前。その上の準備を心がけ、勝利の下地を作る重要性を説いた。就任した昨季から何度も口にする「執念」は、確かに実を結んでいる。この日も試合中、控え選手は自分の出番、試合展開を予測してベンチ裏でバットを振っていた。さらに6、7日と無安打に終わっていたバレンティンは、試合前に石井琢打撃コーチに練習を志願。ブルペンで直球、変化球を投げてもらい、打ち返していた。

今季、延長戦での勝利は2度目。青木は「あそこで去年は勝ち切れなかったけど、一押しできた」と納得の表情。劇的な勝利で、さらに上昇気流に乗っていく。【保坂恭子】