<スキルアップに役立つ最新の道具、練習器具をご紹介(1)>

今回から3回にわたり、少年少女のスキルアップに役立つ、最新の道具や練習器具を紹介します。1回目は、打撃技術向上を目的にしたバッティングパートナー(BP)。タイヤ打ちとティー打撃の要素を1つにまとめたもので、関西地区を中心にじわじわと広がっている。早速、導入した五條リトルシニア(奈良)の練習にお邪魔して、その効果を聞いた。

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パシン、パシンと小気味のいい音が響く。時たま、ボスっと鈍い音がすると、コーチの森崎寛樹さん(56)から「今のはバットの角度が悪かったなあ」と声が飛ぶ。選手がインサイドアウトの軌道で、折り重なったゴムをたたくと、再びパシンといい音をたてて、バットはきれいに振り抜けていった。

五條シニアの中学生たちが取り組んでいたのは、バッティングパートナーと呼ばれるスイング練習機。高さ144センチのアルミ製の柱に、上下に可動するアームが2本、ついている。アームの先には長さ30センチ、幅10センチ、厚み1・5センチのゴムがそれぞれ垂直方向に取り付けられており、用途によって重ねたり、隙間を空けたりと調整できる。

具体的には以下の練習が可能だ。

<1>ゴム打ち 上下2つのゴムを重ね、打ち抜く。ゴムの重なり具合によって負荷を変えられる。

<2>置きティー打撃 上下のゴムの間隔をボール1個分にして、隙間にボールを挟んでそれを打つ。

<3>居合抜き 上下のゴムの間隔を空け、バットがその隙間を通るように打つ。

2つのアームは、上から120センチ、下から60センチまで動くので、高低の調整も可能。選手の身長に合わせたストライクゾーンをつくることができる。身長差の激しい少年野球でも、多くの選手が使用可能だ。

考案したのは、日本ハムや近鉄で長距離打者として活躍した中島輝士さん(56)だ。タイヤ打ちに加え、プロ野球の現役時代に取り組んだ真剣による居合抜きの練習を再現できないか、周辺に相談を持ち掛けたのが昨年1月。ピッチングマシンなど機械製造の老舗、西野製作所(石川県かほく市)の協力を得て、昨年暮れに完成した。

中島さんは「いろんな種類のスイング練習が1台の器具でできないか、試行錯誤しました。タイヤ打ちだとバットを振り抜けませんが、これだとしっかり振り抜くことができるし、ティーもできる。ゴムが重なる部分を調整すれば、その選手にあった負荷でスイングできます」と話した。

実際の効果はどうだろうか。昨年終わりからBPを使って練習している五條シニアの永井大飛(やまと)選手(14)は「インパクトが強くなって、集中力が高まりました」と証言。米田大祐(こめだ・たいすけ)選手(14)も「バットの振り抜きが良くなりました。試合でも手応えを感じています」と話した。

DeNA三浦大輔コーチの恩師でもある山本剛志監督(56)は「バットの角度の確認や集中力の養成に役立っています」という。今春には創立3年目にして全国大会8強入りするなど、成果が出ている。難点は持ち運びに手間がかかること。フルスイングしても動かないよう、鉄製の土台を用いているので、重さは32キロ。大人でも複数で運ぶ必要があるため、土台に滑車などをつけられないか、現在、改良中だ。

四国の強豪公立校が取り入れるなど、徐々に広がっている。中島さんは「今後も改良を進めます。将来的には、小さな子供が家の中でもスイングできるタイプもつくっていきたい。野球人口が減りつつある今だからこそ、底辺を広げていきたいんです」と話していた。

◆中島輝士(なかしま・てるし)1962年(昭37)7月27日、佐賀県生まれ。柳川からプリンスホテルへと進み、88年ソウル・オリンピックで全日本の4番を務める。同年ドラフト1位で日本ハム入団。89年ダイエーとの開幕戦で史上2人目となる新人開幕サヨナラ本塁打を放った。96年近鉄移籍。98年現役引退。通算641試合453安打52本塁打。近鉄や日本ハムなどでコーチを歴任し、台湾・統一、四国IL徳島では監督も務めた。