慶大が快勝し、1勝1敗の五分とした。2位をかけた早慶戦の決着は、3回戦までもつれた。

勝利の立役者は、先発の木沢尚文投手(3年=慶応)だ。自己最長7回1/3を投げ、散発3安打2四球無失点で2勝目。「できすぎです」と目を丸くした。1人1人を抑えていった結果だ。初回、先頭は好調の滝沢。竹内助監督から「初回、先頭は絶対に抑えてくれ。滝沢を乗せないでくれ」と厳命されていた。初球149キロで空振り。3球で追い込み、最後は6球目、152キロで見逃し三振を奪った。

指示を遂行し、木沢の投球の方が乗った。それまでの自己最速151キロを1キロ更新したが、続く金子の初球で154キロ(ファウル)。さらに2キロ更新した。それぐらい、真っすぐが走っていた。スプリット、スライダー、カーブも交え、7回までで10奪三振。8回先頭を抑えたところで、球数が112球を数え、お役御免となった。

エース高橋佑の後を受け、2回戦で投げることが多かった。が、ここまで1勝のみ。満足いく結果を残せていなかった。早慶戦を前に「ずっと早稲田打線のことを考えて生活していました」。抑えるイメージを膨らませ、相手の映像を何度も見返した。セットから投げる際、頭が突っ込み気味になる点も修正した。「これ以上ない準備をしました。打たれるわけはないと思ってました」と自信を持って臨んだ。

試合前、慶大の控室には大久保秀昭監督(49)の声が飛んだ。

「勝ちたいんや!」

沈着冷静な指揮官が珍しく、感情をあらわにした。前日の1回戦は、本盗を決められる屈辱の末、敗れた。お互い、既に優勝はないが、早慶戦は負けられない。木沢は「監督が珍しく。技術抜きで、今日は勝ちたいと思いました」と、熱い思いを受け取っていた。

高校時に右肘の靱帯(じんたい)を痛め、最後の1年間は、投げられる時期と投げられない時期が半々だった。「不完全燃焼だったので、大学でも野球をやりました」という右腕が、伝統の一戦で良い仕事をした。