戦場に帰ってきた。大腸がんからの再起を目指してきた阪神原口文仁捕手(27)が「日本生命セ・パ交流戦」の開幕戦、ロッテ1回戦(ZOZOマリン)の9回に代打で出場。左越えの適時二塁打を放った。

昨年10月13日の中日戦以来となる1軍戦出場。鮮やかな復活打でチームの大勝発進に貢献した。

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一塁ベースを蹴った。原口が全力で駆ける。ヘッドスライディングで二塁にたどり着いた。「本当に1軍は素晴らしい舞台だなと、あらためて思いました」。9回1死三塁。初球から思い切りフルスイング。2球目も迷わずにバットを振り抜いた。いずれもファウル。そしてカウント1-2からの4球目。打球は大きく舞い上がり左翼フェンスを直撃した。塁上でかみしめるように笑みをこぼした。

復帰後初安打のボールは、ロッテナインから阪神ベンチへ。矢野監督が自ら受け取って、原口の手に渡った。「自分の中ではあまり緊張していないと思っていたんですけど、終わってみたら胃がキリキリ痛いですね」。大腸がんから再起を期し、1軍の舞台を目指してきた。復帰するだけでなく、結果も残す。最高の形になった。

代打で打席に向かう時、原口はスタンドを見上げ、ゆっくりと2度、頭を下げた。「家族に行ってくるよ、と。これから頑張るよという気持ちもありながら。ロッテファン、タイガースファンの皆さん、たくさん声援をくれた。これからまた新しい野球人生が始まる、スタートするという意味でお辞儀させてもらいました」。試合後も原口を包む大歓声は収まらなかった。234日ぶりのこの瞬間を、誰もが待っていた。

昨年末に大腸がんであることが発覚した。1月末に手術を終えたことを公表。懸命にリハビリを続け、3月上旬から2軍に合流した。4月中旬の鳴尾浜。練習前の円陣で、原口が大きな声で叫んだ。

「人生を幸せに生きるコツは、小さな幸せを見つけること! アンテナを張っていくことが野球にもつながっていく。今日も小さな幸せを見つけて、練習頑張りましょう!」

野球ができること、ファンの温かい声、全てに感謝しながら1歩ずつ進んできた。困難を乗り越えたからこそ、グラウンドの1つ1つに幸せを感じた。

9回に代打で出場するまでも、原口はベンチで懸命に戦っていた。チームメートに大きな声援を送りながら、1つ1つのプレーをじっと見つめ、膝に置いた手帳にそっと書き込んだ。そこにはすでに、勝利に向けて戦う姿があった。「チームもすごくいい雰囲気。その輪に戦力として加わっていけるように頑張っていきたいと思います」。強い男が帰ってきた。【磯綾乃】