崖っぷちに立たされ、「逆転の広島」が目を覚ました。8回まで4点のビハインド。9回は2死から3点差を追いつき、延長10回に勝負を決めた。

ヒーローは安部友裕内野手(30)だ。中日祖父江の1ボールからの2球目、浮いた真っすぐをたたいた。「遅くまでスタンドに残ってくれたファンの声援のおかげで入ってくれました」。勝利を信じた赤いスタンドの後押しを受けるように、左翼方向へ上がった飛球はスタンドに吸い込まれた。

先頭だったが「僕が決めたろう」と打席に向かった。6回無死満塁では空振り三振。8回無死一、三塁は併殺。凡退続きで気持ちは高ぶっていた。珍しく“1発狙い”も、頭は冷静。「強引にならないよう、後ろにつなぐ」と自分自身に言い聞かせ、初球の抜けたスライダーを見て直球に狙いを定めた。「練習通りに打つことができた」。負ければ自力Vが消滅した一戦。プロ初の左方向への1発で広島の望みをつなげた。

チームは得点機を逃すなどもろさも見られるが、粘り強さも出てきた。今季14度目の延長戦は4月に1勝1敗とし、月間20勝の5月は4勝1分け。大きく負け越した6月は3敗2分けで、7月は2連勝。延長戦の強さが復調を予感させる。

緒方監督は試合後も「間違いなく記憶に残る試合。すごい試合を選手たちがやってくれた」と興奮冷めやらぬ様子だった。安部も「誰もまだ諦めていない」ときっぱり。崖っぷちで希望をともし、弾みもつける勝利をつかんだ。【前原淳】